電子書籍の衝撃/佐々木俊尚

iPadKindle等のデバイスの登場で、電子書籍が従来よりもさらに身近なものになりつつある。
とはいえ、紙の本がなくなるわけがない、電子書籍など普及しないという意見もよく聞かれる。本というものが将来的にどうなるものか、これから先の数年が紙媒体の本の転換点になるだろうと思われる。

この本では、電子書籍を取り巻く環境についてまとめられており、書籍の将来像を書籍を読むためのデバイスだけでなく、本を書く作者からその流通までを含めた全体像の中から語られており、説得力がある。
電子書籍が普及するか否か、という話をすると「紙の本のすばらしさ」のような感情的な話になりがちだし、電子書籍のデバイスの発達で読みやすいとか、検索できるとか枝葉末節のメリット説明になってしまうことが多い。
この本では、それはそれとして認めたうえで、情報の流通のあり方、電子書籍をとりまくビジネスモデル、といったより総合的な視点から書かれているため、説得力があると感じられるのだと思う。


電子書籍を取り巻く生態系(電子書籍周辺に完成するビジネスモデル群)を完成させるキーポイントは以下の4点とされている。
1.読むのに適したデバイス
2.購入し、読むのに適したプラットフォーム
3.プロ、アマチュアといった属性を排除した本のフラット化
4.新しいマッチングモデル

世間話レベルの議論では、読みやすいデバイスの話に終始しがちであるし、実際日本が何故電子書籍という分野でKindleiPadに遅れをとっているか、という点もデバイスの技術で語られていることが多いと思う。(何故技術では勝っているのに、とか技術のここが負けている、とか)
しかし、デバイスは1つの要素でしかなく、そこに行き着くまでの「本の編集」、「流通」、「購入」といったところにも電子書籍と紙書籍の違いは当然あり、その違いこそが電子書籍でトップになれる企業とそうでない企業の違いになると説明されている。

本が作られ、売られるまでのプロセスは大雑把な理解では以下のとおり。
1.作者が書き、
2.編集者が校正し、
3.印刷され、
4.取次に流され、
5.書店に並べられ、
6.購入される。

さらにより長期的な展望を持てば、
0.作家を発掘し、
というところもプロセスとしては見逃せない。誰に書かせるか、を決めるという点の重要性は高い。

こうしたプロセスのどこを抑えるのが電子書籍分野における勝利への道なのか、それがビジネスモデル構築の重要な点であると思う。
紙媒体の書籍を販売する際には、取次の重要性が高く、どの本屋にどの本を配るかの決定権を持ち、さらには出版社と書店間における金融の機能も有していた。だが、電子書籍で重要になるポイントも同じだとは限らない。というより、流通はデータだけになり、書店に並べられないのだから、異なって当たり前、ということになる。

電子書籍になることによる変化は、主なところでは
・印刷コスト
・流通コスト
・購入方法
・読書方法
かと思う。

印刷コスト・流通コストが下がることで、アマチュアでもプロと同じように本を売る機会を得られるようになり、本との出会い方は変わっていくだろう。


全体の論旨としては、まとめ的なところで全体像の理解を助けるものだと思う。意見として、興味深かったのは、電子書籍は出版文化を破壊するというが、守るべき出版文化など既に無い、ということだろうか。
電子でも紙でも、消費者が自分の求める本と出会いやすい環境を作る、ということがゴールなのに違いは無い。惰性で紙が残るだろうという安易な発想ではなく、変化を捉える思考法をしないといけないなと思う。