戦略的デューデリジェンスの実務/株式会社KPMG FAS

M&Aにおけるデューデリジェンスでの調査・分析事項の全体像を示した本。
M&Aが、妥当な価格で買うことが重要であるとしたうえで、
ビジネスデューデリジェンス、財務デューデリジェンスを中心に、
どのような分析を行い、結果をどのように価格に反映させるかを説明している。

デューデリジェンスのポイントが一覧化されており、実務としてどのような調査・分析を行う必要があるのか、
全体を把握する上ではリストとして役に立つと考えられる。

戦略的デューデリジェンスとして、包括的な領域を対象に、統合後を見据えたデューデリジェンスを唱えている。
とはいえ、内容としてはビジネス・財務を中心に、法務・人事・IT・環境を参考に記載といった配分で、
統合後の計画への反映という点については、ビジネス・財務等の領域ごとに統合計画に反映すべき点が例示されている。

統合後の計画への反映については、あくまでデューデリジェンスの視点からの記載であり、
実際に計画策定等を行う視点については、別の本で補完する必要がある。



【目次】
第1章 M&Aによる企業価値の創造とデューデリジェンス
第2章 ビジネスデューデリジェンス
第3章 財務デューデリジェンス
第4章 その他のデューデリジェンスと留意点
第5章 業種別デューデリジェンスの留意点
第6章 デューデリジェンスにおける発見事項とその対処
第7章 デューデリジェンスにおける発見事項とM&A後の統合プロセス

【概要】
第1章

  • DCF法で5年間の事業計画に基づくCFをベースに評価を行う場合、計算される価値のほとんどは6年目以降の「残存価値」。また、「残存価値」は5年目の損益状況をベースにその後の成長率を見込んだ永久還元法により算出することが多い
    ⇒計画5年目の損益状況がDCF法による計算で大部分を占める、計画の詳細分析が重要
  • ビジネスデューデリジェンスと財務デューデリジェンスは表裏。ビジネスの結果として財務があり、ビジネスの裏づけがなければ財務の将来計画もない。相互の連携が重要
  • 売り手側に立ったデューデリジェンスをベンダーデューデリジェンスという。売り手側が第三者的に想定される売却価格を算定し、障害を抽出、M&Aにおいて主導的なポジションを維持するためのもの。複数の買い手候補に対して報告書を配布することで、双方の負担軽減も図られる
  • 事業価値:事業のための資本を回転させることにより生み出される、その事業の価値
    企業価値:事業価値に非事業性資産・負債を加味
    株主資本価値:企業価値から外部調達資本部分を差し引き
  • ゴーイングコンサーン価値:事業・企業が今後も継続する前提の価値
    リクイデーション価値:清算した場合の価値
  • 実際に株式市場で観測されるベータ値は各企業の資本構成の影響を反映したレバード・ベータであるため、類似上場企業の実績ベータ値の平均を用いるような場合には、株主資本100%とした場合のベータ値に戻したアンレバード・ベータを用い、予想資本構成にあわせてレバード・ベータ化する

第2章

  • 基礎的事項
    1. 事業内容、事業の状況等
    2. 組織構造・ガバナンスと報告体系、内部統制
    3. 経営戦略、ビジネスモデル、KPI
    4. 生産体制、販売網と調達網、物流
    5. マーケティング
    6. 研究開発
    7. 経営陣、従業員の概要と人事報酬制度
    8. 各関連会社の位置づけと関連会社間取引
    9. 設備投資計画
    10. 事業計画と予算の策定手続、現状
    11. 過去の重要な調査
    12. 内部監査と外部監査の概要、結果
    13. 重要な会計方針、会計慣行
    14. 過去おおび現在進行中の組織再編、リストラの概要
    15. 株主総会、取締役会等の議事録
    16. 重要なコミットメントや偶発債務
  • 外部環境分析の手法
    1. 業界図
    2. Five Force分析
  • ビジネスモデル・内部資源の分析
    1. Value Chain分析
    2. アンゾフのマトリックス
    3. SWOT分析
  • 収益性分析
    1. 売上・売上原価・売上総利益
      • 売上高区分ごとの金額・構成比・成長率・利益率の時系列比較
      • セールスミックスの時系列比較
      • 返品・値引き・リベートに係る分析
      • 予算・実績対比分析
      • 顧客別・商品別販売平均単価推移分析
      • マーケットシェアの推移、ポジショニング分析
      • 製品・サービスの差別化、技術力の評価
      • 顧客に係る分析(集中度、大口顧客に対する売上推移、顧客の業況)
      • 代替品出現の影響評価
      • KPIに係る競合他社との比較分析
      • 売上原価の内訳分析、時系列推移分析
      • 製造原価の内訳分析、原価差額の分析、時系列推移分析
      • 仕入先に係る分析(集中度、大口仕入先からの仕入推移、仕入先の業況)
    2. 人件費
      1. 組織構造と人員配置
      2. 人員数、人員構成、給与水準、平均年齢の時系列比較
      3. 人件費の金額推移、1人当たり人件費・1人当たり売上高人件費率の時系列比較
      4. 対象会社の人事戦略
      5. 過去の大規模なリストラの顛末
      6. 競合他社との比較分析(1人当たり売上高、1人当たり人件費、売上高人件費率)と人員削減の余地
      7. 間接部門人員に係る分析
      8. 人事考課制度、インセンティブボーナス制度の評価
      9. 退職給付に係る制度および退職給付債務・費用の分析
      10. 労働組合との関係
    3. 人件費以外の費用
      1. 費用に係るKPIの時系列比較(売上高に対する広告宣伝比率、販管費率、減価償却費率)
      2. 固変分解と損益分岐点分析
      3. 予算実績対比分析
    4. 運転資金
      1. 運転資金に係るKPI(売上債権回転日数、在庫回転日数、仕入債務回転日数、運転資金の変動幅)
      2. 平均的な決済条件と売上債権回転日数、仕入債務回転日数の比較
      3. 顧客・仕入先ごとの決済条件
      4. 過去に行われた売上債権のファクタリングや証券化に係る情報
    5. 設備投資
      1. 過去の設備投資
      2. 過去における営業活性化投資とその効果
      3. 設備投資計画
    6. 企業の戦略を製品・市場、新規・既存のマトリックスであらわすのがアンゾフのマトリックス
      1. 市場浸透戦略:既存製品・既存市場
      2. 市場開拓戦略:既存製品・新規市場
      3. 製品開発戦略:新規製品・既存市場
      4. 多角化戦略:新規製品・新規市場
    7. 売上原価の内訳分析においては、製造原価以外の棚卸減耗損や滞留商品引当金繰入額、リベート、値引き等、原価性が認められる営業外損益として計上すべき事項が混入している場合もあるので注意
    8. 事業価値の計算に重要な運転資金の増加・減少を分析、その際には正常運転資金額が重要となる、売掛金等の売上債権、棚卸資産には不良再健也滞留在庫等、正常営業循環過程を外れたものが含まれていたり、支払いの遅れにより買掛金が膨らんでいることも多い

第3章

  • 回転期間分析:全体的な回転期間と主要顧客の回収条件を比較し、乖離がないか確認
    主要顧客の平均回収サイトを大幅に上回るようであれば売上債権残高に滞留債権が含まれている可能性がある
  • 売掛金の年齢調べ表(エージングリスト)から滞留債権を把握する:得意先ごとに債権が、ある基準日から遡って何ヶ月前に発生したかを示す
  • 原価計算制度の概要把握のためには、原価計算規定と勘定連絡図を入手し、どのような流れで原価が集計されているかを俯瞰的に把握し、費目別計算、部門別計算、製品別計算という順序で追う。
    1. 費目別計算:原材料費、労務費、材料費の区分が正しいか。
      労務費・経費と販管費との区分、予定原価の設定がチェックポイント
    2. 部門別計算:部門直接費、部門間接費の区分基準、予定原価の設定がチェックポイント
    3. 製品別計算:仕掛品の計算方法(原価の範囲に労務費や経費も含んでいるか)、進捗率の把握方法がチェックポイント
  • 運転資金は一般的には「運転資金=売上債権+棚卸資産-仕入債務」であらわされる
    含めるべき項目に普遍的な定義は無く、通常の事業運営において、短期的に発生するキャッシュインフローとキャッシュアウトフローで構成されている必要がある
  • 株式取得の場合は対象会社の課税関係を引き継ぐ場合が多く、税務上検討すべき点が多いが、営業譲受の場合には税務上のリスクおよびベネフィットの移転はきわめて限定的となる、スキームが株式取得か営業譲受のいずれになるかによって税務デューデリジェンスの範囲は大幅に変わる

第6章

  • 対象企業の抱えるリスクによるディールブレークを回避するためには、買収形態の変更によるリスクの切り離し(税務リスク等)、表明保障や価格調整条項による売り手へのリスク負担の転嫁が考えられる
  • 価格調整事項は、クロージングまでの価値変動文について、価格に反映させる条項
    1. 純資産修正
    2. ネットキャッシュ調整
    3. 債務調整
    4. 運転資本調整
    5. Earn-Out調整:一定の財務目標達成時に書いてから追加金額を支払う(または逆)※用いられるのはまれ