MBA バリュエーション/森生明


企業価値の考え方の基本的な解説
2001年初版ということで古い本ではあるが基本的な内容は変わりない。
教科書的な方法と、実務的なステップを分けて説明しており、
概要レベルの記載としては、実際にどのように計算を行うか、といった点がイメージしやすい。


【目次】
基礎編 道具の理解 ―経営のグローバル共通言語
 第一章 企業価値という共通語
 第二章 企業価値を決める要因
 第三章 会社の値段と企業価値の違い

実務応用編 株価算定とM&Aの実務
 第四章 会社の値決めの実際1 -市場による評価
 第五章 会社の値決めの実際2 -会社を買収する場合
 第六章 M&Aによる価値創造のしかけ
 第七章 M&A現場の実況中継 -A社を買収せよ
 第八章 「良い」M&Aと会社経営


【概要】
第一章

  • 企業価値算定に必要な最低限のツール
    1. 現在価値 Present Value
    2. ディスカウントレート Discount Rate
    3. 永久還元(又は永続価値)の定義式 Present Value of Perpetuity PV = C/r
  • 将来にもたらされる金銭的利益は「もたらされる利益の額」と「支払いの確実性」という2つの要素に分解できる
  • ディスカウントレートはリスクの程度に応じて期待すべき投資利回り(期待収益率)

第二章

  • PERと現在価値算定式は同じ考え方を別の式で表現したものであり、PERはディスカウントレートの逆数に等しい
  • 定率成長の永久還元定儀式:PV = C/r-g (C:キャッシュフロー、r:ディスカウントレート、g:成長率)
  • PERは上記式を変形したもの:PER = PV/C = 1/r-g

第三章

  • 企業総価値を時価総額から算出するには、Net Debtを加える必要がある
    Net Debtは借入金から余剰資産を引いたもの

第四章

  • 類似上場会社の時価総額(会社の値段)とその会社の利益・キャッシュフローの数字との間の関係を倍率で示し、対象会社の値段算定に用いることが会社価値評価の中心部分の考え方
  • もっともよく使われるのは:EBITDA倍率 = (時価総額 + Net Debt)/(営業利益 + 減価償却)

第五章

  • 株式時価総額より低い値段がM&Aの適正価格となりうるのは大きく以下の2つのパターン
    1. 流動性のプレミアムを失う場合:会社を買収する場合、投資の流動性がなくなることによるディスカウント
    2. 株式の持ち合いによる「上げ底」がなくなる場合:日本市場では持ち合いによって株価が高く維持されている
  • DCF法における会社価値の変動要素
    1. 収支予想をどう作成するか
    2. どれほど長い期間の予想をするか
    3. その収支予想期間以降の事業価値(Terminal Value)をどう置くか
    4. ディスカウントレートをどう想定するか
  • 実務的な算定ステップ
      向こう5年間の事業計画を作成
    1. 最終年度における企業価値は類似会社から算定(EBITDA倍率、EBIT倍率)
      永久還元では出さず、5年後に売却して投資回収という想定を置く
    2. 類似取引事例で評価額を検証
    3. 企業価値を会社価値に修正(Net Debt分の調整)
  • 投資家に対して買収金額の妥当性を説明する指標の代表例が「Dilution effect(希薄化効果)」
    買収を行うことによって買い手会社の1株当たり利益が低下するかどうかをチェックする方法
  • つまり、買い手に新たに加わる資金調達コストと営業権償却という2つの財務費用の増加分と買収した会社があげる利益のどちらが大きいかを比較
  • 一般に、PERの高い会社がPERの低い会社を吸収合併すると、買収側の高い倍率のPERが適用され、会社価値にとってプラスになりやすい

第六章

  • 他の会社を買収する理由の代表的なものは4つ
    1. 単なる権力欲・支配欲
    2. 水平統合 - 競合を呑み込む
    3. 垂直統合 - 取引先を抱え込む
    4. 新規事業展開 - 時間を買う

第七章

  1. 将来キャッシュフロー計算
    • 5年収支計画をもとに将来のFCFを計算
    • FCF = NOPAT + 減価償却 - 設備投資 + 運転資金の増減
  2. 5年後時点の企業価値 Terminal Valueの計算
    • 類似会社批准方式のEBITDA倍率で企業総価値の想定を計算(幅を持たせて計算)
    • 無リスク金利を10年国債から援用、株式市場プレミアムはアナリストからデータを受領
    • ベータは幅を持たせて計算
    • 上記により、ディスカウントレートに幅を持たせる
    • EBITDA倍率とディスカウントレートの組み合わせでレンジ価格を計算
      • 価格の検証1
        • 類似のM&A取引と比較して買収プレミアムが妥当な範囲内か確認
        • 類似企業のEBITDA倍率と比較して、何%上乗せした金額かを計算
        • 一般的には支配権のプレミアムは30%などといわれる
      • 価格の検証2
        • Teminal Valueの金額を永久還元の計算式から検証
        • 成長率を計算し、整合するか検証
      • 企業総価値から株式買収価格を算出
        • Net Debtの調整
        • DDの結果反映