数学的思考の技術/小島寛之
経済学者である著者が、世の中の出来事について数学的に考えることを勧める本。
数学的とはいっても数式ではなく、どちらかというと合理的に考える、というイメージか。
経済学の考え方を用いて、現在の社会をどう捉えるか、またよりより社会にするためにどう考えていけばよいかを紹介している。
数学的に考える、ということが必ずしも人間を無視した冷たいものではないということを理解するためには良いかもしれない。
以下各章の概要。(第3部は割愛)
第1部 不安定な毎日を生き抜くための数学的思考
第1部では、現在の社会状況について、数学的思考に基づいた説明を試みる。
第1章 相手を自分の思い通りに動かすには
- 現時点では最適な戦略が、時間の経過とともに最適とはいえなくなる事象について、動学的不整合性に基づいて説明を行う。選択の余地を後に残すことによって、逆に後に不利となる状況の例示をする。(インフレ政策等)
第2章 給料が上がらないのはなぜか
- 雇用者と非雇用者の給与格差について、リスク許容度の差から説明を行う。雇用者は変動的な収入を許容し、平均として大きな額を得ようとすることを解説。
第3章 人に本音をいわせるテクニック
- 私的情報を利用したフリーライドをさせないための「メカニズムデザイン」について説明を行う。私的情報を吐き出させるためにはコストがかかることを例証。
第4章 「だらしない人」の経済学
- 個人の判断における時間整合性について説明を行う。多重債務者の思考には時間整合性がなく、それによって一貫した判断ができないというモデルについて例証。
第5章 年金問題を数学から考える
- ヒルトールの無限ホテルを例にだし、年金問題の説明を行う。無限に新しい世代に負担をさせることで成り立たせるモデルの欠陥について、始める人間には負担がないため、インセンティブとなるが負担は先送りにされ続け、人口減少とともに破綻することを解説。
第6章 協力って、大事?
- ゲーム理論における協力ゲームについて説明を行う。協力ゲームの解のうち、コアを例として解説。参加者のうち、個人合理性が全体合理性に反しない解をコアとした上で、コアが存在しないケースについて言及。
第7章 不確実な世界における行動法則
第8章 勝ち組は、運か実力か
- ネットワーク外部性について説明を行う。ヒット商品と第2位の商品の差は大きなものになることを解説。また、サーチ理論に基づいて金融市場におけるネットワーク外部性を解説。参加者の多い金融商品のほうが、売買のサーチにかかる時間が少なく、流動性が高くなる。これがネットワーク外部性の源泉となることを解説。
第2部 幸せな社会とはどういうものか
第1章 どんな経済、社会が望ましいか
- 経済の循環が妨げられることで、自分にも災いが起こりえることを例を用いて説明を行う。
第2章 今、コモンズを考える
- ピグーによって唱えられた外部不経済について説明を行う。外部不経済とは、市場の外側で問題が発生し、社会の存在を踏まえると最適でないものに集中してしまう現象であると解説。また、それに続く議論として、オープンアクセスのコモンズは必ず荒廃するという点から環境問題と経済の関係について解説。
第3章 デフレ不況への処方箋
- デフレによる回復が必ずしもうまくいかないことについて説明を行う。デフレによって貨幣の価値が上がり、受けられるサービスが多くなったとしても、それ自体が貨幣を保有し続けるさらなるインセンティブとなってしまい、人々がより貯蓄に動いてしまう小野理論を解説。
第4章 伝統的な経済学の限界
- 抜け目ない裁定行動的な存在として人間を捉えることの限界を示し、制度学派の説について説明を行う。
第5章 お金より大切なものはあるか
- 社会共通資本の重要性について説明を行う。社会共通資本とは、自然環境、都市インフラ、社会制度等を包括する概念であり、貨幣によって発生した不整合に対して有効な、非貨幣的な対応として解説。
第6章 私たちが暮らすべき魅了的な都市とは
- 機能的な都市計画の限界を示し、人が住みやすいと感じる町について、ジェイコブスの4原則を紹介し、説明を行う。
第7章 人間の「不完全知」といかに向き合うか
- 人が自分の内面的な選好を熟知していないからこそ、社会共通資本や公共財の価値が重要であることについて説明を行う。また、インターネットは非貨幣的なインフラであり、貨幣がなくともインターネットを通じてサービスを受けることが可能であり、1つの社会共通資本であると解説。
- 経済成長が必要なのは途上国のみであり、先進国には必要ないとしたミルの説を紹介。ミルの唱える定常状態の実現のためにも社会共通資本が重要であると解説。
第3部 「物語」について、数学的思考をしよう
第1章 世界を構成する「どうどう巡り」の道具
第2章 村上春樹のトポロジー 「あちら」と「こちら」のつなぎ方
第3章 『1Q84』はどんな位相空間か
最終章 暗闇の幾何学