道具としてのファイナンス/石野雄一
道具としてのファイナンス/石野雄一
ファイナンスの理論よりも使いこなすことに重点を置き、
この本の内容をマスターすればMBAホルダーよりもファイナンスが使えるようになる、
とMBAホルダーが書いた本。
附属のExcelまでもれなく自分でやってみれば、かなりの理解が深まることは間違いない。
【目次】
序章 ファイナンスの武者修行
第1章 投資に関する理論
第2章 証券投資に関する理論
第3章 企業価値評価
第4章 企業の最適資本構成と配当政策
第5章 資本市場に関する理論
第6章 デリバティブの理論と実践的知識
第7章 ブラック=ショールズ・モデル
【概要】
序章
- 世間では、運用サイドのリターンばかり気にする風潮があるが、調達サイドのコストがわかっていないと「儲かっているか」の判断はできない
- 企業が行う意思決定は大きく分けて以下の3つであり、ファイナンスの役割もこの3点にある。これらの意思決定の先にあるものは企業価値の最大化
- 投資の決定:調達した資金をどこに・いくら投資すべきかという意思決定
- 資金の調達:投資のための資金を、どこから・どのように調達してくるかという意思決定
- 配当政策:株主に対して、資金をどのような形態で、いくら還元すべきかという意思決定
- 投資の決定:調達した資金をどこに・いくら投資すべきかという意思決定
第1章
- 将来価値:X円を年利r%で運用すれば、n年後の将来価値は、X*(1+r)^n
- 現在価値:n年後に受け取るX円の現在価値はX/(1+r)^n
- 永久債の現在価値:PV=C/r ※Cは毎年のキャッシュフロー、rは割引率
- 成長型永久債の現在価値:PV=C/(r-g) ※gはキャッシュフローの毎年の成長率
- ある資産の価格は、その資産が将来生み出すキャッシュフローの現在価値の合計に等しい
- 割引率には、そのキャッシュフローのリスクの程度と期間に照らしてみて妥当な金利を設定する
国債の利回りにリスクプレミアムを乗せる
正解は無く、実務では感度分析を行う
- 投資判断指標の例
- NPV
- 資金回収期間ルール:予測されたキャッシュフローの合計が初期投資額と同額になるまでの期間
- 内部収益率
- NPV
- 投資判断指標として用いられるNPVは「将来のキャッシュフローの現在価値の合計額から当初の投資金額を差し引いたネット額」
- 資金回収期間ルールの課題は以下の3点
- 収益性インデックス:キャッシュインフローの現在価値/キャッシュアウトフローの現在価値
- 内部収益率とはNPVがゼロとなる割引率を指し、割引率を予め決める必要がない点がNPVよりも簡易であり、よく用いられる
- 内部収益率を使って投資案件を選択する場合は、比較する投資案件が、他の投資案件よりもリターンが高いこと、双方のプロジェクトのリスクが同程度であることが前提となる
- 投資案件の相互比較では、NPVルールとIRRルールのそれぞれで結果が異なる場合がある。その場合、NPVルールの結果を採用すべき(内部収益率はプロジェクトの規模の違いを反映しない弱点がある)
- キャッシュフローの符号の変化と同じ数のIRRが存在する
- 内部収益率の弱点
- 資本制約がある場合には、収益性インデックスが大きい順に予算枠に達するまでプロジェクトを選択する
- 期間が異なるプロジェクトを比較する場合、NPVルールでは長期間のプロジェクトが有利となるバイアスがかかる
- With-Withoutの原則:投資判断するためにはプロジェクトを実施した場合のキャッシュフローと実施しない場合のキャッシュフローを比較すべき
- ワーキングキャピタル:キャッシュの回収と支払のタイミングのずれを埋め合わせるために必要なキャッシュ
流動資産-(流動負債-短期借入金)
- ワーキングキャピタルは実務上は以下のように計算
売上債権(売掛金・受取手形)+在庫-支払債務(買掛金・支払手形)
第2章
- ファイナンスの世界では、リスクとは予想することができない「不確実性」をいう
- 実務上では、ボラティリティは標準偏差を指し、標準偏差が大きいほどリスクが高いといえる
- 正規分布の性質
- 標準偏差を平均で割り、100をかけてパーセント表記したものが変動係数。相対的なばらつきを表す指標の1つ
- 2変数の相関関係の方向を示す指標として、共分散という統計量を使う
- それぞれの株式の偏差(リターンと平均値の差)を計算し、それを掛け合わせる
- それらの掛け合わせたものの平均値を算出する
- それぞれの株式の偏差(リターンと平均値の差)を計算し、それを掛け合わせる
- 相関係数は、共分散を2つの変数の標準偏差の積で割って求められ、一般的に以下の水準
- ±0.7〜±1:強い相関がある
- ±0.4〜±0.7:中程度の相関がある
- ±0,2〜±0.4:弱い相関がある
- ±0〜±0.2:ほとんど相関がない
- ±0.7〜±1:強い相関がある
- 同じリスク(標準偏差)をとる場合に、そのポートフォリオよりも優れたポートフォリオが他にないことを効率的といい、効率的なポートフォリオが集まったものを効率的フロンティアと呼ぶ
- リスクフリーレートから効率的フロンティアに接する線は資本市場線と呼ばれ、この直線が最も効率的となる。このときの接点にあるポートフォリオをマーケットポートフォリオと呼ぶ
- シャープレシオはポートフォリオがリスクに見合った運用実績をあげているかをみる指標で、分子はリスクプレミアム、分母にリスクをとる
- βが0や1以外の値をとるときのリスクプレミアムは、資本資産評価モデル(CAPM)によって答えられる。CAPMによればすべての資産のリスクプレミアムは、その資産のβに比例する
- 効率的市場仮説:市場で決定される株価はその時点で利用可能な全ての情報を反映しており、過去の株価の推移から将来の株価を予想することはできない
- weak-form:マーケットの株価には、過去のすべての情報が反映されている
- semistrong-form:マーケットの株価には、過去の情報に加えて、現時点で公表されているすべての情報が反映されている
- strong-form:マーケットの株価は公表されているか否かを問わず、すべての情報が反映されている
- weak-form:マーケットの株価には、過去のすべての情報が反映されている
第3章
- CAPMによる株主資本コストの算出方法:E(r)=rf+β[E(rm)-rf]
- リスクフリーレートには10年国債の利回りを用いる
- マーケットリスクプレミアムは長期間にわたる株式の平均収益率とリスクフリー資産の平均収益率の差として定義
リスクフリーレートや株式市場の国の設定により変動
- βの回帰分析には最低5年間分はデータが必要
- 株式のリターンは実務上は月次・週次(日時では取引されない日が含まれ、βが実際より低く計算される)
- リスクフリーレートには10年国債の利回りを用いる
- FCF=NOPAT+減価償却費-設備投資-ワーキングキャピタル増加額
FCFからは企業が営業活動からどれだけのキャッシュを生み出すことができるのかを把握する
- 企業価値=株式時価総額+Net debt(有利子負債-現金および現金同等物)
- DCF法とは、事業の価値は、企業が将来生み出すFCFの現在価値の合計に等しいとする方法
- DCF法で企業価値を割り出す手順
- FCFを増加させる要素
- 株主資本コストを考慮するための指標として、EVA(Economic Value Added)が登場。企業は資本コスト以上の税引後営業利益を生み出すことができれば、企業価値を高めることができることを表す
- EVA=NOPAT-投下資本*WACC
- NOPATと投下資本を別々に捉えずに表すと
EVA=(ROIC-WACC)*投下資本
WACCを上回る投下資本利益率をもたらす事業にのみ投資することが重要
第4章
- 財務レバレッジには、ROEを高める働きと同時にROEの期待値のばらつき(リスク)を高めるという働きがある
- MM理論の第一命題:税金や取引コストなどがない完全資本市場では、資本構成は企業価値に影響を与えない
1枚のピザを2つに切っても4つに切っても、ピザ全体の価値は変わらない
- 法人税がある場合は、負債を利用すると支払利息の節税効果の現在価値分だけ企業価値が高まる
- 最適資本構成は負債の持つ節税効果と財務破綻コストとのトレードオフ(資本構成のトレードオフ理論)
- コベナンツは企業活動の柔軟性を減らすが、結果的にエージェンシーコストを引き下げることで企業価値を高める
- 企業が資金調達を必要とするときは、まず内部資金を利用し、外部資金調達が必要な場合は、最も安全な証券から発行すべき(ペッキングオーダー理論)
内部留保⇒銀行借入⇒普通社債⇒転換社債⇒普通株式
- MMの配当無関連命題:株主価値は、配当政策とは無関係
第5章
- 債券投資のリターン
- 債券の価格は、その債券が生み出すキャッシュフローを現在価値に割り引いたもの
第6章
- 金利スワップは固定金利と変動金利のキャッシュフローを交換する取引(プレーンバニラスワップ)
- スワップ取引には元本分の金が必要なく、銀行にとっても、B/Sを増やすこと無しに効率よく利益を上げることができる
- 通貨スワップは異なる通貨のキャッシュフローを交換する取引
通貨スワップは元本部分も交換することから金利スワップとは異なりリスクが高い
- どれだけ複雑なスワップでも、将来のキャッシュフローの交換であり、そのキャッシュフローの現在価値の合計は取引開始時点では等しい、という原則は成立する
- オプションの種類
- オプションの価値=本質的価値+時間価値
権利行使した場合の価値と、今後株価が権利行使価格を上回る可能性が価値となる。時間的価値の現象をtime decayと呼ぶ。
- 転換社債の価値=max(普通社債としての価値,転換価値)+オプションの価値
- ワラント債は株式を購入できる権利を付与した証券。転換社債と異なり、行使後も社債部分は残り、その分の払い込みが必要。
- ワラント債の価値=普通社債の価値+ワラントの価値