企業分析力養成講座/山口揚平


企業の分析手法を外部環境・内部環境、ビジネスマーケット・キャピタルマーケットの2軸から、整理・解説。
構造に特徴のある企業を例にとって、それぞれの分析方法を解説する。
専門的な内容というわけではないが、企業を分析する際に外部環境が内部環境に与える影響や、財務が事業に与える影響、それぞれの位置づけを概観したうえで把握することができ、わかりやすい。

【目次】
ガイダンス
case1 スターバックスコーヒージャパン
case2 三菱地所
case3 創通
case4 ビックカメラ
case5 GABA
case6 JR東日本
case7 横浜銀行
case8 ミクシィ
case9 任天堂

【概要】

  • PLの順序が分配を受ける順番を示している。原価は仕入先、販売管理費は従業員、支払利息は銀行、税金は国、そこで残った利益が役員に分配され、最後に株主の取り分が残る。
  • コングロマリッド企業の場合、どこが収益の源泉なのかを見極め、分析するポイントを絞ることが重要
  • 投資家は、B/Sを以下の4つに分解して考える。
    1. 事業用資産:棚卸資産、在庫については六掛け程度の評価が必要。
    2. 非事業用資産:余剰の現金や事業に使っていない土地、有価証券など。
    3. 運転資本:仕入れから代金回収まで必要なつなぎ資金。運転資本=棚卸資産-買掛金=コスト
    4. 調達資本:事業を行ううえで調達資金。企業の資産の持ち主を示す。
  • 通常の事業では、売上とともに利益が伸び、キャッシュが生み出され、そのキャッシュを再投資することで事業が拡大する。アニメ産業では、投資から回収までのスパン(期間)が著しく長く、必要な運転資金が大きくなるからである。
  • 企業価値が10倍になるとすれば、といった過程を置き、その実現可能性を検討する方法をバックキャスティングと呼ぶ。
  • ビジネスシステムとは事業を機能別に分解し、競合との差別化策などを考えやすくするフレームワーク。ある事業に関連する機能を漏れなく細分化することで、問題点が発見しやすくなる。差別化を図るアプローチには、ビジネスシステム全体を通して再構築するか、ビジネスシステムの一部に働きかけて強化するかの2つのアプローチが考えられる。
  • 小売業の競争の本質が、まずは「スケール(規模・範囲)」にあるため。小売業とは、商品を製造せず個人消費者のために商品の販売に特化する業種である。そのため独自の商品を販売することが難しく、商品での差別化ができず、結果として価格競争に陥りがち。
  • GABAもNOVAも基本的にはまず生徒からお金を預かる仕組み。これが前受金として流動負債に載っている。この使い方が、NOVAは債権や在庫、固定資産に化けていた、そのために授業料の返還請求に対応できなかった。このような業務形態をとっている会社の「前受金」の増減は業績のよしあしの先行指標になる。
  • キャッシュフローは長い期間で見る必要がある。最低で5年間、できれば10年間のキャッシュフローの動きを見なければならない。
  • 営業キャッシュフローと投資キャッシュフローの2つを足したものをフリーキャッシュフローという。財務キャッシュフローはその2つの調整弁
  • 投資キャッシュフローは成長期には基本的にマイナス。投資の結果キャッシュを稼げるようになると営業キャッシュフローとしてリターンが産み出される。
  • 利上げが行われる局面では、銀行の収益は減少し、利下げ局面においては増加する。これは金利が上がると資金需要が減るため。
  • 銀行のB/Sに有利子負債はない。一般の事業会社の場合は事業用の資産・負債と経営の土台となる資産・負債を分けて扱う。しかし、銀行の場合、負債も資産も、すべて貸し出しをするための原資であるという考え方をとる。(デットフリー)
  • 銀行のPLには営業利益の概念はない。売上高に相当する部分が経常収益、売上原価・販売管理費に相当する部分が経常費用。通常、営業利益に金融収支を入れて経常収支を見るが、銀行の場合すべてが金融収支であるため。
  • 一般事業会社の企業価値評価においては、事業価値に費事業用試算を足し、有利子負債を引くと定義できる。銀行の場合、冬季純利益あるいは経常利益から税金を引いた数を割引率で割り引くのが簡易的な方法として一般的。
  • ソロスの投資法は、「再帰性」という独自の理論に基づいている。
    1. 市場はいつも間違っている
    2. 間違い(バイアス)は、ときに将来の「現実」に影響を与える
    3. そのため、トレンドは続き、ブームは起こる
    4. 現実と期待の乖離が臨界点に達すると、株価は破裂する