財務諸表分析入門/平林亮子


財務3表の分析方法を説明した本。
入門というところで図解、カラーでわかりやすさを重視している。
3表の基本的な構造や指標の理解に使える。


【目次】
第1章 財務諸表分析とは何か
第2章 貸借対照表とその分析
第3章 損益計算書とその分析
第4章 貸借対照表損益計算書
第5章 株主資本等変動計算書とその分析
第6章 キャッシュフロー計算書とその分析


【概要】
第1章

  • 財務諸表分析の4つの視点
    1. 収益性:株主にとっての株価・配当/債権者にとっての利払いの安定性/従業員にとっての給与
    2. 安全性:債権者にとっての債務不履行リスク/従業員にとっての給与支払いのリスク
    3. 成長性:株主にとっての株価・配当への期待/債権者にとっての利払い安定の期待
    4. 生産性:株主にとっての株価・配当への期待/従業員にとっての給与上昇の期待
  • 財務分析は、分析を通じて会社の状態を理解したり、会社の将来を想定したりすることが目的。そのための手法が比較。
    1. 期間での比較
    2. 他社との比較
    3. 業界での比較
    4. 目標値との比較
  • 財務諸表分析の限界
    1. 会計方針による差異
    2. 貨幣数値に反映されないものの捨象
    3. 過去のデータによる分析
    4. 文飾決算や利益操作
  • 連結財務諸表と個別財務諸表の違い
    1. 貸借対照表の純資産の部:個別では「評価:換算差額等」、連結では「その他の包括利益累計額」
    2. 連結では包括利益計算書を作成


第2章

  • 株主にとっての貸借対照表は、株主が最終的に処分することのできる権利がある会社財産の状況を表の左側に示す。反対に、株主が最終的に負担する義務がある会社にとっての負の財産を右側に示す。その差額としてNetで最終的に株主に帰属する財産、すなわち株主の持分が純資産として右側の下のほうに表示される。
  • 会社にとっての貸借対照表は、活動の原資を右側に、活動による運用状況を左側に表示したもので、会社資金の調達と運用の状態を表す。
  • 資産は3種類
    1. 流動資産:比較的短期間で資金として回収されることが予定されている資産(現金、預金、売掛金棚卸資産など)
      • 当座資産流動資産の中でもごく短期のうちに資金に変化する見込みの資産(現金、預金、受取手形売掛金など)
        短期的な支払財源として期待されており回収予定が狂う場合が問題となる
      • 棚卸資産:販売することで利益をあげることを目的として保有している資産
        販売という順序を踏まなければ資金の回収ができない、販売予定が狂うと資産本来の価値が失われてしまい、資産の不良化から資金回収力の減退を招く
      • その他の流動資産当座資産棚卸資産以外で1年以内に資金として回収される予定の資産(貸付金、立替金、未収金など)
    2. 固定資産:長期的に回収が予定されている資産(建物、機械、構築物、車両、工具危惧備品、土地など)
      資金回収は長期利用による営業活動への貢献の中から実現
    3. 繰延資産:直接的に回収しようと考えても、直接回収することのできない資産(創立費、開業費など)
      支出の効果が将来にわたって期待されるという理由から複数の会計期間に負担させる。資産を擬制されている
  • 負債は2種類
    1. 流動負債:比較的短期間のうちに返済されることが予定されている負債(買掛金や短期借入金など)
    2. 固定負債:長期的な返済が予定される負債(社債、長期借入金など)
      一般的に社債は3年以上の償還期限、長期借入金は5-10年
  • 純資産は以下に区分
    1. 株主資本
      • 資本金:株主から払い込まれた資金、資本金程度の財産は会社に確保しておくようにという要請の意味合い
      • 資本剰余金:株主から払い込まれた財産のうち「資本金」とならなかった金額
      • 利益剰余金:会社がその活動により稼いできた利益のうち社内に留保した金額
    2. 評価・換算差額等:資産を時価で評価したり外貨換算したりすることによって生じた計算上の差額、資産にも負債にも入れられない性格
    3. 新株予約権:株式を購入する権利、義務は確定していないので夫妻ではなく純資産に表示
  • 貸借対照表にない項目でありながら、会社の財政状態に影響を与える項目をオフバランス項目という。代表的なものは以下の2つ。
    1. 偶発債務:ある一定の事実が生じたときに会社の債務が発生してしまう事象(子会社の銀行債務について親会社が債務保証契約を結んでいる場合など)
    2. 後発事象:決算日より後に生じた事象で会社の財政状態に影響を及ぼす可能性のある事象(決算後に取引先が倒産した場合など)
  • 利益の配当や自己株式の取得等による純資産の社外流出の限度額を規定した剰余金の分配可能額の規制がある。分配可能額は剰余金の額から分配時の自己株式の帳簿価額等を控除して求める。
  • 安全性分析
    1. 正味運転資本=流動資産-流動負債:
      会社の運転資本の余力を示す指標。
    2. 流動比率=流動資産/流動負債:
      会社の短期的な支払能力、資金の余裕度を示す指標。150%程度あれば優良。
    3. 当座比率=当座資産/流動負債:
      資産の処分を前提としない支払能力、資金の余裕度を示す指標。100%以上あれば優良。
    4. 負債比率=負債/自己資本
      資金調達の側面からの安全性を示す指標。
    5. 自己資本比率=自己資本/総資本:
      安定性の高い自己資本の割合。資本効率の観点からは負債のほうがよい。
    6. 固定比率=固定資産/自己資本
      固定資産への資金の投入がどれくらいの自己資金でまかなわれているか、財務面での安全性を示す指標。100%未満が理想。
    7. 固定長期適合率=固定資産/(長期負債+自己資本):
      回収に長期間を要する資金投下に、返済が長期の資金がどれくらい割り当てられているか。100%未満が理想。
    8. 1株あたり純資産=純資産/発行済株式総数:
      株式の価値を表す
  • 貸借対照表の規模を時系列で見ることで成長性を分析可能


第3章

  • 売上原価は、棚卸資産の期首残高に当期に仕入れた分を加算して、期末残高を控除して算出する。期末棚卸残高を大きく計上することで、売上原価が下がることに留意。
  • 実効税率は課税対象となる所得に対して実際に負担することになる税金の比率、実績負担率は会計上の利益に対する税金の負担割合を示す。所得と利益に対する割合であり、両者は異なる。
  • 1株あたり純利益は会社の規模の対象にかかわらず、株主資本の有効活用度をあらわす。配当の分析を行う場合は期末の株式数、収益性の指標とする場合は期中の平均株式数を用いる。
    新株予約権社債などで将来の株式発行が予定されている場合、それらを考慮し、潜在株式調整後1株当たり純利益を出すケースもある。
  • Interest Coverage Ratioは金融費用の支払い能力ないし利息の支払における安全性の指標。利益にどれくらいの余裕をもって利息を支払うことができているかを示す
    (営業利益+受取利息)/支払利息


第4章

  • PL、BSを連携させる指標の意味合い
    • 資本回転率:資本1円あたりの売上。資本減少によって売上が横ばいでも増加する点に注意
    • 売上債権回転率:売上に対する未回収分の割合。回転数によって回収の早さを表す。
    • 棚卸資産回転率:棚卸資産に対する売上原価の割合。回転数によって棚卸資産が販売される早さをあらわす。
    • 仕入債務回転率:仕入債務に対する仕入高の割合。回転数によって仕入債務の支払いまでの早さをあらわす。
    • 交差比率(売上総利益率 × 棚卸資産回転率):売上総利益率と棚卸資産回転率のどちらに重点を置くかという施策検討に活用
    • ROA:総資本に対する利益の割合。売上高利益率×資本回転率に分解される。
    • ROE自己資本に対する利益の割合。ROAに、財務レバレッジの要素が追加。


第6章