ピクサー流マネジメント術/エド・キャットマル

ピクサーは、トイストーリーから数えて、全ての作品を成功させている。組織において常に成功する、というのは不可能に近いほどに難しいことであると思われるが、ピクサーがいかにして、継続的な成功をおさめてきたかということを社長であるエド・キャットマルが語っている。

映画を作るためのマネジメントというと、通常の仕事とは異なり、圧倒的にクリエイティブで展開も不可能な方法論なのかとも思える。しかし、組織のマネジメントという意味では、きっと類似の部分があると考えられるし、むしろ知識労働のマネジメントという意味では、こういった分野のほうが一般企業よりも先を行っているケースもあるのかもしれない。

目次は以下のとおり。(エド・キャットマルが著した一部のみを抜粋)

第1部 ピクサー流クリエイター集団の作り方
はじめに
第1章 クリエイティビティとは何か
第2章 ピクサー文化のルーツ
第3章 ピクサー流経営術
第4章 正しい軌道を維持するために


第1章、第2章では、クリエイティビティはアイディアではなく、人材に宿るという点から、ピクサー文化として、常に最高のレベルのものしか出さないというメッセージをいかに組織の構成員に伝えていくかという点が語られている。
第3章からが、主にマネジメントにかかわる点であるように思う。ポイントは「優秀な人材を中心にした組織づくり」であり、以下の点に分類できる。
?クリエイターにこそ権限を
?現場では平等であれ
?風通しよく話し合える雰囲気を作れ
?テクノロジー+アート=魔法

特に、上記の中で語られていたシステムの中でも重要と思われたのは、?から?で継続的に触れられているナショナル・ブレーン・トラストという助言集団と、ラッシュ上映会の2点。
ナショナル・ブレーン・トラストとは、既に成功している監督数名からなるブレーン集団で、作品に取り組む監督はこのメンバーから助言を得ることができるというシステム。それは指示ではなく、いったいどこが悪いのか、といった点について助言という形でアイディアを得ることができるとのこと。権限を与えないことにより、議論を活発にさせることが可能となった。
さらにラッシュ上映会とは、日々の仕事の中で、作業を進める監督同士が未完成の状態のものを互いに公開し、意見を求めるというシステム。これにより、手戻りを防ぐとともに、互いのインスピレーションを高めるというもの。なお、このラッシュ上映会を承認の場にするのではなく、あくまでも日々の経過報告とすることで、途中のものでも気負いなく発表できる場にすることが重要とされている。

これらについては、日々の仕事でも類似のことが言えるのではないだろうか。助言を求めたくても、指示が増えることを恐れて聞きにいけないことや、手戻りを防ぐための経過報告に向けて、仕上げの準備をしてしまうことが往々にしてあるのではないかと思う。この方法は、制度としてはシンプルだが、雰囲気として定着させるのは非常に難しく、重要であると思う。


最後に、?にて触れられている継続的に成功するために必要なこととして、事後分析とフレッシュな人材の確保が挙げられている。
両方ともにシンプルなことではあるが、成功した後の事後分析はみなが嫌がるものであり、これを機能させるためには成功点と並べて失敗点を挙げるという工夫が必要であるとのこと。

事後分析の必要性は誰もが認めるところであるが、個人のレベルから組織のレベルまで、本当に嫌な部分については事後分析ができていないことが多いのではないだろうか。自分の行動も振り返りたい。


継続的に成功するための方法論というほど、詳細なものではないが、知識労働を成功させるためのマネジメントとして、ヒントになる事項はこうした芸術活動の中にも存在するのではないだろうかと考えさせられる一冊だった。