歴史は「べき乗則」で動く/マーク・ブキャナン

自然界に存在するべき乗則から、人類の歴史を語る本。
べき乗則とは、何かが1つ増えたときに、関連するものが何乗かになる法則をいい、例として地震があげられている。
地震はエネルギーが二倍になるたびに、発生頻度は四分の一になるというべき乗則に従っている。
その他にも、山火事や凍ったジャガイモの破片の大きさといった自然界に潜むべき乗則について説明がなされるが、
その後、自然界だけでなく、都市の大きさや戦争の規模といった人間の活動に関する事項にもべき乗則が当てはまるものがあると語られる。

べき乗則に従うものの特徴として、正規分布と異なり、典型的/平均的なものが存在せず、
大きな出来事だからといって相応の大きな原因があるのではなく、全く同じ原因から小さな出来事も大きな出来事も起きるというものがある。
これは臨界状態を対象とする非平衡科学の一つとして説明される。

人間社会も臨界状態にあると考えることができ、
その中で個人が与える影響は、個人の偉大さに比例するのではなく、影響が出たあとにしかわからないものだといえる。
物事をとらえる際には、典型的/平均的といったことやその原因にとらわれがちだが、
感覚とあわないこういった出来事の法則に思いをめぐらせることも思考の糧になると思う。



【目次】
第1章 なぜ世界は予期せぬ大激変に見舞われるのか
第2章 地震には「前兆」も「周期」もない
第3章 地震の規模と頻度の驚くべき関係 ーべき乗則の発見
第4章 べき乗則は自然界にあまねく宿る
第5章 最初の地滑りが運命の分かれ道 ー地震と臨界状態
第6章 世界は見た目よりも単純で、細部は重要ではない
第7章 防火対策を講じるほど山火事は大きくなる
第8章 大量絶滅は特別な出来事ではない
第9章 臨界状態へと自己組織化する生物ネットワーク
第10章 なぜ金融市場は暴落するのか ー人間社会もべき乗則に従う
第11章 では、個人の自由意志はどうなるのか
第12章 科学は地続きに「進歩」するのではない
第13章 「学説ネットワークの雪崩」としての科学革命
第14章 「クレオパトラの鼻」が歴史を変えるのか
第15章 歴史物理学の可能性

【抜粋】
<第1章>

  • 「臨界状態」は、理論の上だけでの以上な問題であって、非常に例外的な条件の下でしか現れない、とてつもなく不安定で稀な状態であるとみなされてきた。しかし、砂山ゲームでは自ずから必然的に現れた。
  • 「大国の興亡」において、大規模な歴史的変化は、政治や経済の世界的ネットワークにおける緊張の自発的な蓄積と解放によって規定されている、という考えを示した。

<第3章>

  • 地震に典型的な大きさはなく、ある地震がある地震の二倍のエネルギーを解放するとすると、大きな地震の起きる確率は4分の1になる。このような関係を「べき乗則」と呼ぶ。
  • 凍ったジャガイモを破壊した際の破片の大きさはべき乗則に従う。重さが半分になる度にその数は六倍ずつ増えていく。
  • 凍ったジャガイモの破片の山は必ず、「スケール不変性」や自己相似性と呼ばれる特別な性質をもっている。
  • べき乗則には、「一般的」「典型的」「異常」「例外的」といった言葉が通用しない。

<第4章>

  • (人間の心臓の拍動について)データの一部を切り取って拡大すれば、数秒間の変化が、もっとゆっくりの数分間や数時間でおこる変化とそっくりだということがわかった。このたぐいの秩序性には、フラクタルと名前が付けられている。
  • 現実世界のフラクタルを生み出す原因の一つはカオス。
  • 結晶成長のような歴史に支配される過程は、時間に対して不変な方程式ではな理解できない。

<第5章>

  • ブロックとばねによる地震ゲームにおいて、ブロックとばねが自らを臨界状態へと組織化し、装置が不安定なバランスを保つようになり、そしてどんなことでも起こりうるような状態になった。大地震になるか微小地震になるかは、最初の滑りが起こった正確な位置にしか依存しない。これが、地震は予知できず、恐ろしい大変動が何の警告もなく襲ってくる理由である。
  • 現実世界の地震は、前震と余震を伴う傾向がある。これは言い換えれば、大地震は時間的にいくつも集中する傾向があり、地震の起きなかった時間が長いほど、その先も地震の起きない時間は長いだろうということである。
  • 1000回の地震に対して次の地震が起こるまでの時間を記録すると、その時間が短いほど頻度は上がり、そしてそれは通常のべき乗則に従うことがわかる。たとえば、待ち時間が二週間の地震は一週間の地震の約2.8分の1の頻度で起こる。

<第6章>

  • ヘリウムガスを摂氏マイナス271度という驚くべき温度にまで冷却した。ヘリウムガスはその過程で、まず通常の液体に変化し、そして次に、この世でもっとも奇妙な物体の一つ、超流動体に変化することを発見した。超流動体は、普通の液体のように瓶に入れてためておくことができるが、器の中でかきまわすと、できた渦は永久に止まらなくなる。超流動体は粘性という、あらゆる通常の液体がもっている性質を欠いている。
  • ある物質がある形態(相)から別の形態へと変化する現象を相転移と呼ぶ。
  • 臨海状態では、秩序の力とカオスの力とが不安定なバランスの上で争っており、そのどちらかが完全に勝つわけでもない。そしてこの争いの特徴や、それによって戦況が常に移り変わり入れ替わるという状況は、それに関与するほとんどすべての事柄の詳細には関係なく等しい。(臨界状態の普遍性)

<第7章>

  • 砂山ゲームにて、まったくなにもないところから調整することなしに、臨界状態が組織化されるという例を見つけた。(自己組織的臨界)
  • 森林火災を防ぐという姿勢が及ぼした予期せぬ影響の一つは、森林が年を取りはじめたことである。老齢な木が若い木に取って代わられることはなくなり、森林は自然な進化の道をたどらなくなってしまった。火災を抑えたことによって、森林はさらに不安定な状態、超臨界状態へと進むことになったのである。

<第8章>

  • 6500万年前のKT境界と読んでいるこの境界線の上では、すべての恐竜や何千という他の生物の痕跡が、跡形もなく消えてしまっている。二つの地質時代白亜紀第三紀との区切りとしている。
  • 生命の歴史の中では数十億という生物種が進化してきたと概算されている。そのなかで今日存在しているのは数千万種であり、歴史上に存在したすべての生物のうち、99パーセントが絶滅している。
  • 化石が数えるほどしかない場合、そのうちのどれかの年代がその主の絶滅に年代に近い可能性は低い。そのため、化石が少ないほど、種の絶滅の年代を実際よりも早く見積もってしまうことになり、そのずれは化石が少ないほど大きくなる。(シーニョ=リップス効果)
  • 絶滅の規模の分布はべき乗則に従う。絶滅の規模が二倍になると、その頻度は四分の一になる。

<第9章>

  • 食物連鎖のネットワークは自らを臨界状態へと組織化し、最下層に近いたった一つの目立たない種が絶滅することによって、あらゆる規模の絶滅の雪崩が引き起こされうるようになる。そしてもっとも印象的なのは、絶滅の規模が二倍になると、その頻度は四分の一になるということである。実際の化石記録とぴったり一致する。

<第10章>

  • ルイ・バシュリエは、綿の価格について、価格の上下動が完全にランダムであるという点を見いだした。(ランダムウォーク
  • 一人の気分は他の人の気分に影響を与えるので、市場は自然に臨界状態のようなものへと常に組織化され、そこではどんな一時的な期待や不信もあらゆる大きさへと拡大されうるのである。
  • (点と点を結ぶ)規則的なグラフよりもランダムなグラフのほうが、少ない歩数でどこにでも到達できる。

<第11章>

  • 人口400万のアトランタに対して、その半分の人口の都市が4つある。そのさらに半分の人口の都市が再び4つあると続いていく。
  • どの都市でも大小の人口集中地域が点在しており、それらの大きさはべき乗則に従う。すなわち、人口集中地域には「典型的な」大きさというものはなく、地域全体にはある種の自己相似性が成り立つのである。

<第12章>

  • パラダイムを練り上げ、その学説が示唆するすべての事柄を導きだそうとする活動のことを「通常科学」と呼ぶ。
  • 通常科学とは、優れた学説からなる現存のネットワークの隙間を埋め、それを広げていくものであり、どんな形であろうと、科学者たちの世界の捉え方に根本的な修正を迫ろうとするものではない。しかし、この通常の働き自体が、必然的に異常現象や不整合を生じさせ、既存の学説ネットワークに内的ゆがみを蓄積させていく。

<第13章>

  • 「学問の地震」の最終的な規模を測定するには、その後の論文に引用された回数に注目すると良いであろう。
  • 学説のネットワークは、ささいな偶然がしばしば前触れなしに巨大な革命を導く、ドミノ倒し的連鎖を引き起こすような形へと組織化されているのだ。
  • ある規模の戦争がどれだけの頻度で発生したかを表す曲線を得て、そこに非常に単純なべき乗則が成り立っていることを発見した。死者数が二倍になるたびに戦争の頻度が四分の一になるということを見出した。

<第14章>

  • 出来事の重要性は個人の偉大さに由来するものではない。ある人物を重要で「偉大」にさせるのは、時代の意志という鬱積した力を解き放ち、その巨大な力を動かす能力なのである。
  • 「物事はどのように変化するか」という問いに対して考えうる、もっとも一般的な答えは、以下の2つ。
    1. 歴史は原理的に樹木の生長のようなものであり、成熟し安定した最終点に向かって、単純に進歩していくもの。人類が「歴史の終焉」における安定した社会に近づくにつれ、戦争や社会的混乱はどんどん少なくなっていくはずだ。
    2. 歴史は地球のまわりを回る月のように、繰り返されるものなのかもしれない。文明の興亡を規則的に繰り返すよう運命づけられた過程であると考えた。

<第15章>

  • カオス理論にかけているのは、集団的振る舞いという重要な概念である。歴史には無数の力が働いている。歴史における典型的な傾向を理解するには、多くの独立した物事が互いに相互作用しているような系を表す、歴史科学が必要となる。
  • (「なぜ戦争や革命は起きるのか」に対するトルストイの答えとして)我々はその答えを知らない。我々が知っているのは、人々がすべてある団結へと向かうことによって、それらは起こるということだけだ。それが人間の性質であり、それが法則なのだ。