日本の税金/三木義一
税法の専門家である著者が日本の税金を制度別に解説し、他国との比較を行いつつ、議論のポイントを示している。
税金の設計は国家の設計であり、どのような目的で誰からどれだけの税金をとるか、ということが国民の経済活動のインセンティブを大きく動かすことがわかる。
そうはいっても、税金の設計を行う財務省と民間企業にはまだ隔たりがあり、税に関する議論はあまりにも積み重ねが多く、財務省をはじめとした専門家の議論には太刀打ちできないのも事実であると思う。
消費税等のわかりやすい部分だけでなく、全体感を持った理解が必要と改めて感じるところ。政治の最重要ポイントとも言えるだろう。
【目次】
序章 もっと税金を知ろう
第1章 所得税ー給与所得者は優遇されている?
第2章 法人税ー選挙権がないので課税しやすい?
第3章 消費税ー市民の錯覚が支えてきた?
第4章 相続税ー自分の財産までなくなる?
第5章 間接税等ー税が高いから物価も高い?
第6章 地方税ー財政自主権は確立できたのか?
終章 税金を監視しよう
【抜粋】
序章
- 日本の税金の半分は所得(個人6割、法人4割)から得られており、所得中心主義が維持されている。
資産税は全体で17%であり、そのうち相続税は2%にも満たない。
第1章
- 日本のサラリーマンに対する給与所得控除は法定額として一定額となる。欧米にも類似の制度はあるが、実額控除が原則で概算控除も選択できることにされている。その概算控除額も低額、もしくは収入の一定率と定額で上限もある。日本の給与所得控除額はかなり高額。
- サラリーマンにも「特定支出額」が給与所得控除額を超えるときには、給与所得控除に変えて特定支出額を控除できる、という制度がある。しかし、初年度は全国で16人しか利用しておらず、限定的な範囲。
- 専業主婦にも所得確保の道を税法上開くには、二分二乗方式がある。これは夫婦の所得を合算し、その半分ずつをそれぞれが取得したと仮定し、それぞれの税額を合算する方式である。
- 基礎控除は憲法25条に規定される「生存権」の反映である。しかし、その金額は38万円と低額であり、生活扶助金額が毎年改正されていることにより、現在は生活扶助金額の50から60%にすぎない額となっている。
- 一般に所得控除は高所得者有利、税額控除は低所得者有利とされている。
- 所得税の公平性を担保するための議論として、二元的所得税構想がある。これは所得税を「資本所得」と「勤労所得」に分け、勤労所得に対しては累進税率を採用し、資本所得は合算して比例税率で課税するものである。
第2章 法人税
- 日本の法人数は約260万であり、ドイツ・イギリスの約60万、フランスの約90万、アメリカの約225万と比較してもかなり多い。中小零細までを含むためであるが、そのせいで法人税の議論の方向性が曖昧になっている経緯がある。
第3章 消費税
- 事業者であっても前々年、または前々事業年度の課税売上高が3000万円以下である場合には免税事業者となり、消費税納税の義務はない。これが益税といわれ、批判を受けている。
- フランスで発明された付加価値税方式は各国で利用されている。これは仕入れ税額控除により、税に対する課税を防ぐ方式であり、インボイス等により控除を認める仕組みである。
第4章 相続税
- 日本の相続税制度は、遺産取得税方式を採用していた。これは遺産の額には関係なく、各相続人がどれだけ相続財産を取得したかに応じて相続税額を決定するものである。
しかし、農家の単独相続時に不利になってしまうといった点を考慮し、遺産税的要素を取り入れたことで複雑な計算方式となってしまった。
- 一旦相続財産の分割が終わった後に、さらに財産が見つかり、総額が変更されてしまった場合、分割されたある相続人がそれを知らなくても加算税が課される。
第5章 間接税等
- 酒税の基本的思想は高級酒には高い税率を課すというものであった。しかし、ビールは位置づけが変わっても税率は維持され、税収の要ということもあり減額はされないまま現在に至っている。
- ガソリン税は道路の特定財源となっており、使途が限定され、族議員暗躍の場となっている。今後は道路財源とは切り離し、環境税とすること等が必要ではないかと考えられる。
第6章 地方税