国際協力 その新しい潮流/下村恭民、辻一人、稲田十一、深川由起子

国際協力に関する歴史、及びその中でも特に日本の実施してきたODAの歴史を概観した本。
教科書的な記載ではあるが、国際協力の基礎的な流れを知る上では役に立つ。
冷戦後の東西対立、第三世界の台頭といった歴史の流れにあわせて、援助を実施する先進国側の思惑、
そしてそれを受ける途上国側の思惑が入り交じった中で国際協力という一分野が築かれてきたことがわかる。

日本はかつては援助額規模世界一位として名を馳せたが、現在は予算も縮小され、順位も落ちており、
必ずしも国民からの支持が高いとも言えない状況となっている。
この本の中では、国際協力という分野がどのように発展してきたか、年代ごとの主要なテーマに触れつつ紹介されているが、
そういった内容は普段目にするものではなく、政争のテーマになることもないだろう。

国際協力、ひいては外交の「効果」とは何か、これが明らかにならないところが難しい点なのだろうか。
政府の活動による効果の可視化は、他分野についても困難がつきまとうが、国民に対する効果という意味では、
この分野はよりいっそうの難しさがあると感じる。


【目次】
第1部 国際協力の基礎理論
 第1章 国際協力ということ
 第2章 国際協力の基本的な仕組み
 第3章 途上国支援アプローチの変化
 第4章 21世紀の新しい潮流
第2部 国際協力のフロンティア
 第5章 貧困削減への取組み
 第6章 平和構築と復興支援
 第7章 持続可能な開発への取組み
 第8章 途上国のオーナーシップとガバナンス重視の潮流
第3部 国際協力の主要なアクター
 第9章 グローバル・ガバナンス
 第10章 国際資金環流の変化と民間資本の役割
 第11章 市民社会に期待される役割
 終章 日本の国際協力

【抜粋】
第1部 国際協力の基礎理論

  • 国際協力を軍事以外の手段による貢献として規定した考えが「竹下三原則」であり、以下の3領域を活動領域として設定した。
    1. 政府開発援助
    2. 国際文化交流
    3. 平和のための協力
  • ODAとして国際社会で認定されるための条件は以下の3つ。
    1. 資金の流れの出し手が政府あるいは政府機関であること
    2. 目的が途上国の経済開発や福祉の向上であること。したがって軍事援助は含まれない。
    3. 途上国に取って一定の程度以上に有利な条件で資金が流れること。(グラントエレメント25%以上)
  • 人間としての尊厳を維持するために最低限必要な購買力を貧困線と予備、世界銀行は1日1.25ドルと定義した。(2008年)
  • アマルティア・センは効用ではなく、「価値を見出せるような良い状態」を福祉と考え、そのような状態になれることを「機能」と呼んだ。「機能」の範囲の広さが「潜在能力」と呼ばれ、人が福祉を実現する自由度を指す。

    このセンの考え方が、「選択の自由」の重視につながり、「人間開発」へと発展していった。
  • 途上国は民間企業による直接投資の流入を強く希望しており、「援助より投資を」という声が強い。これは、雇用の創造、技術や経営ノウハウの移転効果や返済負担がないことが理由と考えられる。
  • 途上国が経済成長すれば、その恩恵は社会に広がっていく(トリクル・ダウン)という前提があったが、それが限定的であることが明らかになり始めると、貧困層に効果的にサービスが届くように供与しようという「ベーシック・ヒューマン・ニーズ」の考え方が生まれた。
  • 1990年代以降、途上国の人々の生活条件の改善には当人たちの「参加」が必要という潮流が生まれた。参加の段階は以下の考え方に従う。
    1. 貧困削減の試みあるいは開発事業に関する情報を受け取る
    2. 集会に参加し、試みや事業について意見を聞かれる
    3. 集会での対話に参加して、事業内容について意見を述べる
    4. 事業内容を決める意思決定に参加する
    5. 事業実施に参加し、金銭的・時間的な負担を負う
    6. 完成後の事業の運営に主体的な形で参加し、責任を分担する

第2部 国際協力のフロンティア

  • 成長か貧困削減か、という論の立て方にはあまり意味がなく、国民経済が成長しなければ貧困削減の財源獲得はできない。その上で貧困層も成長しなければ、格差が社会や政治を不安定化させる。
  • 援助は「市場の失敗」に対する政府介入の一種である。そのため、市場の失敗、政府の役割、介入手段等を検討の上で、援助方法を決定しなければならない。
  • ダスグプタによる持続可能な成長とは、1人当たりの豊かさがストック・ベースで長期的に増加していることであり、その要素は?製造資本、人的資本、自然資本への投入、?人口、?全要素生産性の3つとされる。

    つまり、成長を実現させるには、資本への投入を増加させ、ベストな組み合わせを目指し、人口増加を抑制し、生産性を向上させることが必要と考える。
  • 外国援助による支援は、大海の一滴に過ぎず、「事業の持続性」及び「事業の反復性」に対して国際協力は補完的な位置づけとなる。

第3部 国際協力の主要なアクター

  • 国際開発援助レジームの大きな流れは以下のとおり。

    1945-60年:国際開発援助体制の成立

    1960年代:途上国世界の拡大、各ドナー・国際機関の体制整備

    1970年代:世界経済システムの変動ー国際開発援助体制のあり方の模索

    1980年代:構造調整レジームの成立(部分的)

    1990年代:構造調整レジームの世界的拡大、地球的課題への共同対処

    2000年以降:MDGsの設定とPRSP制度の普及拡大、地球的課題への共同対処

  • 世界銀行が提示した包括的開発フレームワーク(あらゆる開発課題を1つの枠組みの中でまとめ、国際機関や各ドナーが協力して支援する方法)を、より具体的な形で結実したのがPRSP(貧困削減文書)である。目標をMDGsに定め、それを達成するためのPRSPという枠組みで世界銀行主導の開発が進められてきた。
  • ODANGOの関係について、NGOは直接的に現地での支援が可能であり、参加・貢献意識が湧きやすいといった特徴があり、ODAはそれらについては劣るものの、相手国政府のリソースを協力することによるインパクトの大きさ、という点に特徴がある。
  • 日本のODAの予算規模は1995年から2007年の12年間に33%減少した。あわせて、世論調査でも、積極的に進めるべきという意見は、やめるべきだという意見よりも少数派に転じている。
  • 日本の援助の方向性として打ち出すべきは、途上国の強みに着目し、途上国が自分たちの社会に内在する優れた要素を再発見することを支援する場の提供。日本の要請主義と揶揄されてきた援助をそこに高めていくべきではないか。