白い仮説 黒い仮説/竹内薫

サイエンスライターの著者が、世の中の事象はすべて仮説(完璧な事実といえるようなものはない)であり、
その信憑性にグラデーションがあるだけだ、というテーマに基づいて、
仮説の信憑性を、マイナスイオンから宇宙の成り立ちに至るまで取り上げていく本。
信憑性の高い仮説を「白い仮説」、低い仮説を「黒い仮説」と呼び、実例に基づいて白黒のグラデーションをつけていく。

ほとんど雑談のネタという感じで、
同じ著者の「99%は仮説」という本を読んだ後に読んだほうが面白いかもしれない。
(こっちの本は、科学とは反証可能性のあるもの、というポパーの話が主なテーマ)

とはいえ、なんでもかんでも信じてはいけない、という考え方、
そして科学的思考とはどういうものか、といったところについて読み物として体験できるのではないかと思う。

こういう「書いてあることを信じるな」という本を読むと、それ自体を信じて良いのか迷うところではある。


【目次】
プロローグ 現代日本は「黒い仮説」が跋扈する時代
第1章 健康か不健康か、それが問題だ
第2章 数字に惑わされるな
第3章 生命と進化からだまされない考え方を学ぶ
第4章 地球と宇宙は白い仮説、黒い仮説の宝庫
エピローグ 「黒い仮説」時代をどう生きる


【抜粋】

  • クラスター水」は真っ黒な仮説。水分子の固まり(クラスター)が小さいほうが、おいしい水だと言う主張だが、水分子の固まりは永続的にはつながっておらず、1兆分の1秒というスパンでつながったり切れたりを繰り返している。安定した水のクラスターなど存在しない。
  • 酒は飲めば飲むほど強くなる、というのは「助っ人酵素」による働きで説明できる。アセトアルデヒド分解酵素は生まれつきだが、毒素が溜まった場合に、緊急避難的にミクロゾームエタノール酸化酵素という助っ人が出される。これが飲めば強くなる、ということの根拠と思われるが、あくまで緊急的な対処であり、肝臓への負担は大きい。
  • バラの香りを嗅いでいると記憶力があがるというのは白い仮説。記憶の対象と、睡眠時に同じにおいを嗅いでいると、睡眠時に行われる記憶の整理が定着しやすくなることが実験で検証されている。
  • 統計データの誤差を概算で知るためには、母数データの平方根を取れば良い。これは視聴率を600世帯からとっていることを例とすると、約4%の誤差だということを示す。
  • 地球の時計とGPS時計の時刻は異なる。これは、相対性理論から、重力が強いために地球の時計はGPS時計と比べて45マイクロ秒遅れ、GPS時計は地球より速く動いているために7マイクロ秒進む。この相対的な差から38マイクロ秒、地球の時計が遅れる勘定となり、実際に調整されている。
  • CTスキャンによって、被験者が足し算を行うか、引き算を行うかは70%の確率で当てることが可能。これは前頭前野の働きから判断できる。
  • クレブス回路とは、人間の体のエネルギーを作る回路のことで炭水化物等を二酸化炭素と水に分解し、エネルギーを得る回路である。この逆に、二酸化炭素と水に太陽のエネルギーを加えて、生物のもとになる物質を作る回路を逆クレブス回路と呼び、生命の起源を解き明かすための仮説として注目されている。
  • 地球の地磁気は、強くなったり弱くなったりするとともに、分裂、収束もする。その際に場所がずれることが知られており、78万年前に地磁気の逆転があったことが、マントルの記録から読み取れる。
  • 自分たちが住んでいる宇宙の物理定数の組み合わせの都合の良さについて、「知的設計者仮説」と「子宇宙仮説」が主に唱えられている。ただ、これはいずれも検証できない仮説である。
  • ブラックホール超新星爆発によって生じる「黒い穴」であり光でも逃げ出せない重力を持つ穴を指す。これは見ることができないので、ブラックホールとなった星の連星の軌道やX線等の周囲へ及ぼす影響から、間接的にブラックホールを観測している。
  • ブラックホールに近づくことができたとすると、ロケットを観測している宇宙ステーションから見ると、ブラックホールに近づくにつれてスピードが遅くなり、赤方偏移により赤外線のようになり、見えなくなってしまう。外から見ている分には永遠にブラックホールに到達しない。