使える!経済学の考え方/小島寛之

経済学の理論が、幸福・公平・自由・平等といったテーマに対し、どのように取り組んできたのかを概説した本。
経済学という分野の社会に対するスタンスを理解できる。

経済学を学ぶ前提として、何を良しとして構築された理論なのかを学ぶことは効果的であるように思う。

平等というものが結果に対するものか機会に対するものか、
日常的に考えることもあるテーマが多く、経済学的な思考の汎用性を確認することもできる。


【目次】
序章 幸福や平等や自由をどう考えたらいいか
第1章 幸福をどう考えるかーピグーの理論
第2章 公平をどう考えるかーハルサーニの定理
第3章 自由をどう考えるかーセンの理論
第4章 平等をどう考えるかーギルボアの理論
第5章 正義をどう考えるかーロールズの理論
第6章 市場社会の安定をどう考えるかーケインズの貨幣理論
終章 何が、幸福や平等や自由を阻むのかー社会統合と階級の固着性

【抜粋】
第1章

  • 経済学では「幸福」を「効用」という量で測り、「関数」という形式で表される。
  • モノの交換価値を決めるのは最後の1単位の与える限界効用である。
  • 最大多数の最大幸福を発展させた「ベンサム&ピグーの定理」は以下3つの仮定に基づき、財を完全等分する完全平等の社会」がもっとも良い社会であるとした。
    1. 社会の良さは全ての人の効用の和で決める
    2. 全ての人の効用関数は同一である
    3. 限界効用逓減の法則に基づく

第2章

  • ハルサーニは、「人が生まれる前」を基点にすることで、「公平無私な理想的観察者」の概念を取り入れ、ベンサム&ピグーの定理において問題となった「効用関数が同一」という仮定をサポートした。
  • 「公平無私な理想的観察者」が自分の来たい効用を最大化することをよしとするなら、それは「社会を構成する全員に関する期待効用の和」を最大化することと同じであると示した。

第3章

  • センは「自由」が「パレート原理」と両立しない、つまり「市民全員の主張を受け入れようとすれば、さほど強くない自由の要請でさえも保障されなくなる」ことを示した。
  • センは社会における人の立場は以下の2つから決まるとした。つまり、「選択肢の広さ」、すなわち「どれだけの自由が与えられていたか」を評価の対象として取り入れるべきと考え、功利主義が見逃してきたものと主張した。
    1. その人の実際の成果
    2. それを達成するための自由

第4章

  • 形式論理と通常の確率理論を組み合わせると、「Aである確率」と「Aでない確率」を足すと必ず1になるのだが、これは実際の推論とは相性が悪い。これを「確率の加法性」と呼ぶ。
  • ジニ係数が小さい所得分配を望む性向とは、「自分がどんな所得の人間になるか」という推論に関して、それを通常の確率とは異なる、いわば臆病で自身の無い見積もりをする性向といえる。

第5章

  • ロールズは「最も不遇な人々の利益を最大限に高める」ことができる場合にのみ、不平等は認められるとした。これを「マックスミン原理」という。
  • 加法性を排除した期待値を「ショケ期待値」と呼び、これを最大化することを「社会のよさ」の基準とするならば、「最小値を最大化する」というマックスミン原理そのものといえる。

第6章

  • ケインズは限界効用逓減を持たない唯一の財を貨幣と捉え、「いくら持っていてももっと欲しくなる」ものとしている。
  • 「貨幣保有から得る効用」の定義に際して、モノを買うことに対して、買うタイミング、何を買うかと言ったことを留保することができるという効能、それを「流動性」の効用とした。
  • 流動性=貨幣」と捉えられることが多いが、流動性は貨幣以外のものにも宿り得る。貨幣に不安が生じれば、石油や宝石に向かうこともある。

終章

  • 所得階層と就学年数には強い相関があるが、それはIQテストの成績ではほとんど説明できない。金持ちほど学歴が高くなる傾向があり、また逆に学歴が高いほど金持ちになりやすい傾向がある。しかも、それは実際のIQとはほぼ無関係である。
  • 学校での教科成績はIQとは無関係であり、「学校への帰属意識」、「我慢強さ」、「秩序を重んじる」、「外から動機付けられる」などの性向と強い相関を持ち、反対に「創造的」、「積極的」、「独立心」とは負の相関を持っている。