起業のファイナンス/磯崎哲也

会計士の著者がベンチャー企業が株式上場するために必要なファイナンス知識をまとめた本。
ファイナンスの基礎的な知識からベンチャー固有の事情への対応について具体的に書かれている。

総論的なところでは、日本はベンチャーに冷たい、というイメージ論は実は外れており、
ベンチャーに供給できる資金はあるが、イケてるベンチャーが現れる仕組みがないのだという話や、
資金が銀行に集まることによって社会全体が大きなリスクの取扱いに長けていない、といった話は面白い。

各論的な部分は、実際にベンチャー立ち上げのときにでも読みかえして使えそうな内容。
種類株式の扱いや、ストックオプション、最初に知っておかないと後から修正の効かないものだということだけは、
先に知っておいて損は無いだろう。


【目次】
序章 なぜ今「ベンチャー」なのか
第1章 ベンチャーファイナンスの全体像
第2章 会社の始め方
第3章 事業計画の作り方
第4章 企業価値とは何か
第5章 ストックオプションを活用する
第6章 資本政策の作り方
第7章 投資契約と投資家との交渉
第8章 種類株式のすすめ

【抜粋】
第1章

  • 共産主義がうまくいかなかったのと同様、役所や少数の銀行だけだが「いい事業、悪い事業」を決めて資金を流すのでは、これほどふくざつかした現代社会ではうまく行かないのは確実です。
  • 日本のように、個人のお金が主に銀行を通じて企業に供給される構造だと、経済変動のリスクは銀行が一手に引き受けることになってしまっている。結果として、大きな経済変動があると、不良債権がつみあがり、銀行の経営危機が必然的に起こることになります。
  • 国が関与するということは、国会という世の中で最も意思決定が遅い期間での決定を経る必要があるということ。
  • アメリカでは、良くも悪くも経済が大きく変動する際のリスクは、銀行ではなく家計を直撃します。しかし、間に国会のような意思決定の遅い機関を挟んでいないため、この衝撃の余波は、日本と比べた場合に相対的に短期間で収束しうる構造になっています。
第2章
  • プロでない個人投資家は行動が読みづらく、「天使」にも「悪魔」にもなり得る。最もシンプルな方法は、なるべく外部の投資家の比率を低く、人数もごく少数にしておくということです。
第3章
  • 革新的なことに取り組むベンチャーほど、事業の内容・商品やサービスは理解してもらいにくい。そこで必要とされるのは「状況にあわせて臨機応変に対処できる能力」であり、「イケてるソーシャルグラフ」の中にうまく入り込めることが重要になる。
  • 絶対成功する事業計画が立てられるわけはないが、明らかにダメなけいかくはわかる。
  • 事業計画には、「外部環境」として、マーケットの概要、市場の規模に加えて、市場の構造を入れる。競争環境の現況と競争の要素、KFS。
  • 1億円の純利益が出ていて、PERが20倍だとすると、時価総額20億円となり、上場できる最低ラインはこの程度と考えられる。
  • 現在、上場を目指しますといって、投資してもらえるハードルとしては、5年後、7年後に10億円・40億円の規模の純利益が出て、上常時の時価総額が300億円。500億円程度になる事業。
第5章
  • オプションには「本源的価値」と「時間的価値」がある。時価5万円の株式を5万円で購入することができるストックオプションでもタダで他人にあげるのはもったいない、と思うのが「時間的価値」。
第6章
  • 創業者の持分は一度薄まったら二度と高まることはない。
  • ベンチャーキャピタルがファンドの投資家から資金を集める際に、「Key man clause」といったものを定めて、特定のパートナーがファンドの運営からはずれることを禁止している場合がある。
  • 日本では銀行に資金の過半が集中しており、社会全体が大きなリスクを使うのにあまり慣れていない構造になっている。
第8章
  • 会社法に定められる株式のメインになる性質は以下の3つ。
    1. 剰余金の配当を受ける権利
    2. 残余財産の分配を受ける権利
    3. 株主総会における議決権