放射能は取り除ける/児玉龍彦

3.11の原発事故により環境中にまかれた放射性セシウムについて、その特性、除染の方法をまとめている。
除染は原発事故以来大きなテーマとなっているが、感情的な数値目標の設定だけでなく、
どのレベルまで、どのような方法で下げるのか、さらにそれが他の事例からみて現実的なものであるか等、
放射性セシウムが何なのか、ということを踏まえたものである必要があるだろう。


【目次】
序章 環境問題としての原発事故
第1章 放射能汚染はどう広がったか
第2章 放射線はなぜ危険か
第3章 放射性セシウムは人体にどう蓄積するか
第4章 本当に効果のある除染とは
第5章 土をきれいにする
第6章 水をきれいにする
第7章 放射性ゴミを保管する
終章 森・水・土を取り戻す



【抜粋】

  • 最初の大きな原発事故は、イギリスのウィンズケールで1957年に起こった。炉を封鎖して火事をくいとめたが、事故後

    50年たっても、核燃料はとりだせていない。あまりにも悪いイメージがついたため、ウィンズケールはセラフィールドと名

    前まで変えられてしまった。

  • 福島第一原発では、空気中に放出された放射線量は歴史上最大となった。チェルノブイリの3倍になる。これは、チェル

    ノブイリのヨウ素131の10倍のベクレル数のキセノン133が放出されているためである。

  • 日本の同情には、雲母が細かく砕けて出来た粘土がたくさん含まれている。セシウムは粘土にくっつくと非常に強く結

    合し、離れにくくなる。粘土の主成分はケイ素とアルミニウムで、サイズが0.002m以下の粒子からなる。セシウムはその粒

    子の隙間にぴたりとはまる。

  • 森林は放射性セシウムの大貯蔵庫になっている。落ち葉や土はセシウムをためこみ、それが腐って腐葉土となりセシウ

    ムを放出するので、たちが悪い。田んぼのコメのセシウム汚染も、周辺の汚染した落ち葉が、夏になって田んぼの中で腐っ

    たことによるものだった。

  • セシウムは、まず屋根や屋上に付着した。特に瓦屋スレートにしみこむとなかなかとれない。金属屋根は比較的洗い流

    されやすいが、さびがあったりするとしみつく汚染が増える。汚染された屋根は張り替えられれば一番である。

  • セシウム137は、945年の広島・長崎への原爆投下までは、環境中に存在しない。その後、核実験競争により世界中にま

    きちらされた。

  • ブラジルのゴイアニア市の移転した病院跡に放置されていたがん治療用のセシウム137放射線源が、2人の若者に持ち出

    された。93グラム、51兆ベクレル分の超高濃度のセシウム137は青白く光るために珍しがられ、小分けにされ、多くの人に配

    られた。

  • 土壌中の放射性セシウムとコメの放射性セシウムは創刊しないところがあった。解析したところ、7月から8月に生長し

    た部分にセシウムの取り込みが多かった。この時期について検討すると、落ち葉などが夏の暑い時期に分解され、そこにつ

    いていたセシウムがイネに取り込まれていることがわかった。

  • 1960年代の核実験によるセシウム汚染の調査経験から、実際の土壌中でセシウム137からの放射線が半減するには、17年

    かかることがわかっている。田畑の土壌が40年で交代し、セシウムの放射活性の半減期が30年であることから、このように

    なる。

  • 自然減を待っていても、基準値近くまで下がったあとはずっと停滞することがわかる。6年目からはほとんど低下がみら

    れなくなり、25年たった今でも、放牧した羊の全頭検査をしている地区もある。コケやキノコ、川魚に濃縮され、それを捕

    食するほかの生物に濃縮されているサイクルは、思わぬところで危険をもたらす。

  • 事故後、モデル住宅の除染費用を概算したところ、ゼネコンやハウスメーカーでは500万円以上かかるという試算だった

    。ところが政府が除染に認めた費用は、同様のモデルで1軒70万円と見積もられている。

  • 日本の成人は1年に平均200リットルの水を飲んでいる。事故直後の2011年3月20日飯舘村簡易水道では965ベクレル/

    キロの放射性ヨウ素が検出された。

  • 大柿ダムの固定の土砂からは一貫して20万ベクレル/キロ程度検出されている。それが攪拌されるせいか、定期的に測定

    していると、数ヶ月に一度、基準値以下ではあるが、数値の上昇が観測される。