発送電分離は切り札か/山田光

電力システムの構造について、ヨーロッパ・アメリカとの比較を中心に、日本における課題と今後の展望をまとめた本。

3.11以降、日本においては電力システムというよりも電力会社に対する改革の要請が高まっているが、
そもそも事故がなかったとしても、時代の変化に応じて電力システム改革について検討されてこなければならなかったということがわかる。

発電・送電・配電・小売というバリューチェーンのなかで、送電・配電は規制産業、発電・小売は競争原理の導入が可能という分類をしたうえで、他国との比較を行う。
日本はすべてを電力会社が担う垂直統合型であり、そのメリットも踏まえたうえで今後の電力システムとして何が望ましいか、という点を検討させる論点を提示する。

3.11の事故を契機に機運も高まっているものであるが、本来高度成長期に適していた垂直統合型、発電主導の電力システムはもっと以前に変えられていなければならなかったのだと考えさせられる。

電力システムの議論にあたっては、原子力発電や廃炉といった議論に終始しがちであるが、事故処理と切り離して、消費者にとって何が適しているか、事業者にとって効率性を高めるインセンティブとなる仕組みは何か、という観点から議論することが必要だろう。


【目次】
序章 電気とコメ
第1章 誤解だらけの発送電分離の議論
第2章 欧米における電力システムの構造改革
第3章 垂直統合型と構造改革型を比較する
第4章 安定供給のための市場づくり
第5章 日本の特殊性
第6章 電力構造改革に不可欠なもの
第7章 日本の電力構造改革のロードマップ
第8章 エネルギー市場の未来
yo

【抜粋】

第1章

  • 電力構造改革とは、垂直統合型の事業形態を構造分離して、発電、送電、配電、小売とに分けることである。また、この結果「自由化」されるのは発電と小売事業であり、反対に「規制強化」されるのが送電と配電である。
  • 配電事業は、電力供給コストの全体の3割を占める高コスト分野。ラストワンマイルはライフラインの要として非常に重要である。
  • ヨーロッパにおける電力の構造分離ステップ
    1. 機能分離、会計分離
    2. 会社分離
    3. 資本分離
  • ヨーロッパではEU指令により加盟国での構造改革が進み、送電系統運用会社と配電系統運用会社がそれぞれ送電資産と配電資産を所有しているので、投資の計画実施が適切に行える。「発送電分離で送電設備への投資が遅れる」と主張する人がいるが、これは電力会社による送電機関への運用委託を「発送電分離」と誤解しているために生ずる。
  • 送電会社または送電事業は、ヨーロッパでは各国のエネルギー規制当局、そしてアメリカでは連邦エネルギー規制委員会の送電料金規制を受けて、一定の収益確保が認められおり、儲からないという規制ではない。公共インフラである送電事業で、規制された収益を超えて儲けようとする日本の電力会社は特殊。
  • 構造改革がされれば、広域で電力の需給調整が行われる。送電網の広域化が停電リスクを防ぎ、さらに偏在する再生可能エネルギーを需要地に輸送することが可能になる。

第2章

  • 構造分離が行われることにより、安定供給の仕組みが、発電所の電源確保から送電網のネットワーク業務にシフトした。
  • 送電会社の広域運用や協調運用には、安定供給に加えて大きな2つの目的がある。1つは電力卸価格の地域間格差の解消であり、もう1つは需要地から離れた場所にある自然エネルギーの輸送である。
  • 配電会社の業務は「電力を小口需要家に届けること」
  • イギリスでは競争の結果、エネルギー小売会社は6社に集約された。3社はイギリス企業、2社がドイツ企業、1社がフランス企業
  • ヨーロッパ型TSO(送電系統運用会社)は送電設備を所有し、運用する。
  • アメリカ型ISO(送電運用機関)は送電設備はISO/RTOに加盟する電力会社が所有し、送電機関は運用だけをコーディネートする。送電設備の投資計画はISO/RTOに参加する電力会社が決定する。
  • アメリカにおける電力規制は卸売と送電市場を連邦エネルギー規制委員会が、発電、配電と小売ビジネスを各州の公益事業委員会が規制している。

第3章

  • スマートグリッドのメリットは、電力会社にとっては自社設備の管理効率化、需要家・消費者にとっては節電・節約、電力システムにとっては電力供給の安定化、社会全体としては新たなエネルギー市場の誕生がある。
  • 垂直統合型では、発電・送電・配電・小売の4業務をすべて抱えるので組織が巨大化しやすい。部門ごとの業務節度があれば部門間の取引コストが不要なので、コストミニマムになる。部門間の意思疎通が良好なので、全社的な判断が早いというメリットがある。一方で異なる価値を持つ部門を束ねることによるコングロマリット・ディスカウントが発生するデメリットがある。
  • 垂直統合型は、高度成長期には適したシステムであった。燃料費が安く、急速に成長する経済にあわせてどんどん発電と送配電の立地と設備投資を行うときは、設備形成と設備稼働が早いという垂直統合型のメリットを享受できた。
  • 構造改革型は送電を中心にすえ、配電を含む流通ネットワークを安定化させ、発電と小売に競争原理を導入し、市場メカニズムを働かせることで電力を安定供給する方式である。
  • 送電と配電業務は地域独占で収益確保が担保されるが、規制当局の監視ですべての原価がオープン化される。また発電事業と小売事業は市場テストを受け、つねにコストを意識した経営となる。
  • 構造改革型は送電網と配電網が市場取引のプラットフォームとなり、エネルギーの供給量と消費者の需要量を市場価格で決定する仕組みである。

第4章

  • ヨーロッパにおける電力の卸取引としては以下の3つがある。以下の3つは現物取引といわれ、このほかに先物取引が行われ、送電権取引も行われる。
    1. 相対市場(市場参加者が相対で取引を実施。2日前までの電気を取引。)
    2. 電力取引所(PX)(1日前から60分前までの需給調整)
    3. リアルタイム取引(TSOが実施、最後の締めの需給調整)
  • TSOとPXが国際連系線利用のアレンジも行い、隣接するTSOとの強調を行って広域バランスを図

    る方向にある。

  • アメリカには現物取引の電力取引所は存在しない。一方、電力先物取引は上場されている。
  • 風力発電など間欠性のある電源を広域連系する際にも、アメリカ型ISOは翌日物市場から時間前市場、リアルタイム市場がシームレスにつながっている。一方ヨーロッパ型TSOでは前二者は取引所、後者は送電会社と分断されてしまう、さらに取引所の送電線の確保についても、同じ運用機関によるほうが運用がスムーズであり、この点でアメリカ型のほうが勝っている。
  • 発電・卸電力市場の事由闊達な競争のためには、ガリバー発電者による市場寡占ではなく、多様な発電事業者が参加した分散型市場が必要である。その点ではヨーロッパ型TSO+PXモデルの前提である発電業務の送電業務からの切り離しがその最初のステップとなる。
  • ヨーロッパのTSOモデルの弱点は分社化などのプロセスに時間がかかり効率性の向上の速度が遅いことである。長所は、発電所の売却・分離などのプロセスそのものにあり、独立性が最初から担保されている。
  • スマートメーター導入の最も重要な意義は、電気料金の変化による需給の調整を通じて、ピークカットや負荷平準化などを行い、電力システムのバランスに寄与することである。総括原価方式の日本の電力料金システムのもとでは、無駄を省くことへのインセンティブを導入する必要がある。

第5章

  • 日本では経済産業省の下に資源エネルギー庁がある。つまりエネルギー政策が産業政策の一部として議論されてきた。イギリスやアメリカではエネルギー省が別で存在する。
  • 経済産業省のエネルギー政策には、電力会社とガス会社が十分な利益を上げることを認め、それを通じて関連産業の育成、技術開発を行うという側面があった。

第6章

  • 日本の電力供給システムのあり方について必要な論点は以下の3点
    1. 経済メリットのある節電メカニズムの取り込み
    2. 再生可能エネルギーの取り込み
    3. 自治体などが主宰する分散型エネルギーシステムとの連系
  • 節電に経済価値を付加したのがいわゆる「デマンドレスポンス」である。デマンドレスポンスには節電を促すインセンティブ料金体系と価格シグナルが不可欠である。