管理会計/櫻井通晴

管理会計について網羅された教科書的な書。
読み進めるには分量的には辛いが、第1部の基礎部分は管理会計の概略が示されており、読み物として読むことができる。

まず第1部の概要。


【目次】
第1部 管理会計の基礎
 第1章 経営者のための管理会計
 第2章 企業価値創造のための管理会計
 第3章 事業部制による業績管理会計
 第4章 キャッシュ・フロー経営
 第5章 原価計算の基礎とIFRS
 第6章 IFRSの導入と管理会計
第2部 利益管理のための管理会計-経営計画とコントロールのための会計1
 第7章 中長期経営計画と利益管理・目標管理
 第8章 企業予算によるマネジメント・コントロール
 第9章 損益分岐点分析による収益性の検討
 第10章 直接原価計算による利益管理
第3部 原価管理のための管理会計-経営計画とコントロールのための会計2
 第11章 標準原価計算とコスト・コントロール
 第12章 原価企画による戦略的コスト・マネジメント
 第13章 ABCによる製品戦略、原価低減、予算管理
 第14章 戦略的コスト・マネジメント
 第15章 物流費、販売促進費、本社費の管理
第4部 経営意思決定のための管理会計
 第16章 経営意思決定会計
 第17章 戦略的意思決定と設備投資意思決定
 第18章 戦略的・戦術的価格決定
第5部 経営戦略のための管理会計
 第19章 経営戦略の管理会計への役立ち
 第20章 バランスト・スコアカードによる戦略マネジメント
 第21章 インタンジブルズの戦略マネジメント
第6部 管理会計の新しい課題
 第22章 組織再編と分権化の管理会計
 第23章 EVAによる経営効率の向上
 第24章 IT投資戦略とコスト・マネジメント
 第25章 研究開発費の管理会計

【抜粋】
第1章

  • 財務会計とは、期間損益計算を行って配当可能利益を算定、投資意思決定に必要かつ有用な情報を、投資家、債権者など、多様なステークホルダーに提供する会計。
  • 管理会計とは、経営戦略を策定し、経営上の意思決定とマネジメント・コントロールを通じて経営者を支援する会計。
  • 従来の日本の会計基準は、プロダクト型経済の前提で構築されていた。IFRSは、プロダクト型経済に加え、ファイナンス型経済とインタンジブルズ型経済モデルにも対応した会計基準である。
  • 株式時価総額から帳簿上の資産価値を差し引いた値が超過収益力であり、この超過収益力をのれんと呼ぶ
  • 企業価値が将来キャッシュ・フローを現在価値に引きなおしたものであるとする欧米での通説を、日本企業がそのまま受け入れるべきかについては以下の3点から議論の余地がある。
    1. キャッシュ・フローが真実を表すといっても、将来の収益の予測が適正であるかについて疑問の余地がないとはいえない。
    2. 計量化できない要素(ブランド価値、経営者と従業員の潜在的な能力等)が影響を及ぼす将来の価値までも含めて経済価値を測定することはできない。
    3. 企業の価値は経済価値だけではなく、社会価値や組織的価値も含まれる。
  • 経済環境の変化と主要な管理会計手法の変遷
    1. 戦後から1960年頃:能率向上(少ない資源を有効に活用) / QCの導入・標準原価計算の活用
    2. 高度成長期:量的拡大(規模の経済とシェアの拡大) / 損益分岐点分析、直接原価計算、設備投資の経済性計算
    3. 1973年頃から1990年代:現場の効果性重視(多品種少量生産のもとでの範囲の経済、バブルの時代に膨張した間接費の削減、) / 原価企画、社内金利制度、JITTQCなどの日本的現場管理の手法
    4. 1990年代から2000年頃:株主重視と効率 / ABCの普及、IFRSの導入、EVA、選択と集中、組織再編と分権化
    5. 2000年代以降:戦略的経営(戦略の策定と実行の必要性) / BSCの実践、インタンジブルズやコーポレートレピュテーションの重要性の高まり
  • 責任会計とは、会計システムを管理上の責任に結びつけ、職制上の責任者の業績を明確に規定し、管理上の効果をあげるように工夫された会計制度。責任会計では、責任センター(経営組織上の構成単位)に焦点を向けて、管理可能下にある業績の結果(実績)を計画値(予算)と対比・測定する
  • 典型的な責任センターは以下のとおり
    1. 原価センター(cost center):自己の管理下にあるセグメントで発生した原価についてのみ責任を負う組織
    2. 利益センター(profit center):原価責任だけでなく、アウトプットである収益の責任を評価対象に含められ、両者の差額としての利益に責任を負う組織
    3. 投資センター(investment center):原価と収益だけでなく、投資額も管理。使用資本の効率的利用も業績評価の対象となる組織
  • 多くの日本企業は財務尺度として経常利益を用いてきた。その理由は以下の3点。
    1. 経常利益は損益計算書から直接入手可能
    2. 公表財務諸表と整合性がとりやすい
    3. 資本構成が銀行借り入れを主体としていたため、金利を控除した後の利益が示されることが合理的
  • 経常利益を財務尺度として用いることの課題は以下の3点
    1. 投資効率を考慮しない
    2. 配当金や留保利益の機会原価等、株主のための数値が考慮されない
    3. グローバル性に欠ける
    4. IFRSが導入されると損益計算書から経常利益からなくなる可能性がある
  • アメリカでは投資利益率(ROI)を用いてきた。ROIの課題は以下の4点。
    1. 積極的な投資活動を行うと投資利益率は低下する
    2. 研究開発投資の効果もすぐには現れないため、投資をしにくくなる
    3. 上記により経済全体が沈下する危険性がある
    4. 四半期ごとに業績を評価される企業では経営が短期的視野になる
  • 経営組織内での経営管理上の責任・権限の以上の仕方には職能別組織と事業部制組織の2つの方法がある。職能別組織では、職能の各管理単位には原価責任や収益責任を負わされるが、利益責任までを問われることはない。事業部制では、原価責任や収益責任を個別的に負うのではなく、事業の総合的な利益責任を問われることになる。
  • 売上利益率法の最大の欠点は、投資効率の測定が無視されていることにある。ただし、トヨタ自動車かんばん方式棚卸資産コストの引き下げ)やパナソニックの内部金利制度(借入金の減少)等、売上収益性の管理と投資効率を向上させる方策を別々にもっていた。
  • 事業部に本社費を配賦した利益を管理する理由は以下の3点が考えられる。
    1. 配賦を行ってはじめて実質的な利益が算定できると考える経営者が多い。事業部利益によって本社費を補填しうるという事実がわかる。
    2. 価格決定のためには配賦された原価が必要だと考える経営者が多い。
    3. 本社費が配賦されていれば、本社費の不必要なまでの増大を防ぐことができる。
  • 本社費を一括して事業部に配賦する際の配賦基準としては以下の基準が用いられる。
    1. 売上基準:経済的な負担能力を基準にして配賦できる利点はある。しかし、たくさんの売上をあげるとそれだけ本社費を負担することとなり、売上拡大の意欲を減殺する危険性がある。
    2. 投下資本基準:本社費の多くが投下資本によって決定されるような倍には妥当。
    3. 人数基準:本社費の相当部分が人数との関連で発生することや人数を減らそうとする誘因が働くことからよく用いられる。人件費が用いられることもある。
    4. 公式法:上記の基準を重み付けした加重平均値から配賦。
  • 本社費には?総務・経理・人事のように配賦の難しい費用、?情報処理費や資材費のように事業部の業務を本社が代行しているとみなせる費用、?研究開発費や広告宣伝費のように本社と事業部の両者の業務を行ううえで発生する費用がある。?を配賦、?・?のうち直接賦課できる費用は賦課する場合もある。
  • 社内資本金制度を導入すれば、各営業部門内で、収益のある部門とない部門とがより明確に把握できる。各事業年度の損益が累積されることが最大の特徴であり、累積利益の分だけ借入金を減らすことができる。
  • 事業部間の社内振替取引には、社内振替価格の設定が必要となる。振替価格には、市価基準、原価基準、協定価格基準の3つの方式がある。
    1. 市価基準:市場価格が存在する場合には最も妥当。独立会社と同じ条件で利益責任を負いうる。
    2. 原価基準:正当な市価が得られない場合に採用。標準全部原価プラス利益基準が最も市価に近い。
    3. 協定価格基準:客観的な社内振替基準が得られない場合に採用。
  • 資金の調達を外部金融と内部金融に区分するならば、増資や借入金は外部金融、利益留保と減価償却費は内部金融である。減価償却費は現金を伴わない費用である。減価償却が行われたからといってその分だけ資金が増加するわけではないが、固定資産に運用されていた資金が売上高の相手科目である売掛金受取手形などの流動資産に形を変えて再び使途を選びうる資金になると考えることができる。