決算書の暗号を解け!/勝間和代


個人で株式投資を行う人向けに決算書の読み方の基礎を説明した本。
会計利益が1つの事実ではなく、操作可能であるという前提に立ち、
財務3表のそれぞれでどういった操作がなされうるか、という観点から読み方を説明する。

株式投資に限らず、財務諸表の読み方の入門としてわかりやすくまとめられている。

財務3表をどれか1つずつで見るのではなく、関係性で読むことの重要性を
何故会計上の利益操作がされうるかという企業側のインセンティブ等、
背景の説明とあわせて理解できる。


【目次】
第1章 会計利益を信じてはいけない!
第2章 財務諸表はこう読み解く
第3章 インチキ利益を見抜くための下準備
第4章 アナリスト目線で全体のイメージをつかむ
第5章 会計士目線で財務諸表を読みこなす
第6章 投資家目線で判断する

【抜粋】
第1章

  • 日本のマーケットで、株価にもっとも影響を与える要因は、経営者による「業績予想」といわれる。決算短信の表紙の一番下に業績予想が書かれるが、これはアメリカなどにはない制度。

第2章

  • 貸借対照表は、どこからお金を借りてきて、いま何に投資しているのかという「ビジネスの源泉」を表している。
  • 資産の部に載る固定資産は、その値段で売れるという意味ではなく、あと○円分償却しなければならない、ということしかわからない。「資産」というよりは「これから費用化される項目の覚書に過ぎない」ということになる。
  • 資産には以下の3つのタイプがある
    1. 本当に額面どおりの価値があるもの:現金、預金、有価証券 等
    2. 額面どおりの価値があるか不明なもの:売掛金受取手形棚卸資産 等
    3. いずれ費用化するもの:固定資産、繰延資産 等
  • 負債には以下の2つのタイプがある
    1. いわゆる借金:買掛金、借入金、社債 等
    2. 費用の見越し計上・利益の繰延:引当金、前受収益 等
  • 投資キャッシュフローは営業キャッシュフローの黒字の範囲内でまかなうのが理想的。あまり儲かっていない会社は財務キャッシュフローからもお金を持ってこなければならなくなる。
  • 発生主義のもとで利益を捻出するのならば、認められた会計基準の範囲で、収入をなるべく前倒しで計上し、費用をなるべく先送りして計上すればよい。
  • 利益の質を見抜くためには、現金利益と会計利益の差額(会計発生高:アクルーアルズ)を見る方法がある。
  • 会計発生高=(当期純利益+特別損失−特別利益)−営業キャッシュフロー
  • 利益の質を見抜く2つ目の方法はROA。利益の絶対額が上がっているのにROAが継続して下がっているような場合は要注意。ROAは通常、3〜15%程度の小さい値なので、少しの差異でも気にする必要がある。

第3章

  • 収益を前倒しする具体的な方法の例
    1. 顧客がまだ支払い義務を負っていない段階で収益を計上する
    2. 顧客と複数年にわたる契約をして、本来は複数年に分割して計上しなければならない売上を前倒しで計上する
    3. 利害関係者などの仲間内に販売する
  • 収益を前倒しした場合、損益計算書上の「売上」・「利益」が増加する。貸借対照表では、期末になって売掛金が増え、資産の部が膨らむ。売上高や営業利益が増えても営業キャッシュフローは増えず、キャッシュ上は当期純利益から大きく減額となる。
  • 費用の計上を先送りする具体的な方法亜の例
    1. 費用を資産として計上する
    2. 償却をなるべくゆっくり行う(償却期間をできるだけ長くする、定率法ではなく定額法を使う)
    3. 減損資産の評価減または償却を見送る
    4. 引当金を十分に積まない
  • のれん代は日本の会計基準では2-20年で定期償却するよう求められている。守備的利益調整(利益隠し)を行っている会社は2-5年、攻撃的利益調整(会計操作)を行う会社はギリギリの20年で償却を行う。
  • 資産をふくらませる具体的な方法の例
    1. 含み益がある株式や土地を市場で売って利益の捻出をする
    2. 含み益がある自社の土地や建物を売ってリースバックする
    3. M&Aなどのときに固定資産を再評価して、自社に都合の良い費用や収益を計上する
  • 負債をなるべく計上しない具体的な方法
    1. 引当金をなるべく計上しない
    2. これまで積み立てておいた引当金を本来の目的外の理由で取り崩す

第4章

  • 健全な業績とは、コンスタントに利益が伸び、かつ営業キャッシュフロー内で投資キャッシュフローをまかなっている。ダメな業績とは毎年同じビジネスをしているはずなのに期によって業績がばらばら。
  • 運転資本が必要な事業形態の場合、売上が伸びている会社の営業キャッシュフローは業態により、マイナスならマイナスが継続、プラスならプラスが継続。マイナスになる典型例はソフトウェア開発業、売掛金の回収までの期間が長く、買掛金や人件費はすぐに払わなければならない。スーパーマーケットは逆で、仕入先には買掛金で取引する一方、買い物に来るお客さんにはたいてい現金で支払ったもらえるため、手元には現金が残り易い。
  • 営業キャッシュフローは、税引前当期純利益減価償却費−法人税に近くなる。減価償却費が小さい会社であれば、営業キャッシュフローは営業利益の60%くらい、減価償却費が大きい会社であれば営業利益の120%くらいになる。

第5章

  • 貸借対照表のチェックポイント
    1. 売掛金受取手形の額がふくらんでいないか⇒キャッシュの裏づけが無い利益を計上していないか
    2. 棚卸資産の額がふくらんでいないか⇒欠品をなくすため、売上原価を下げるために当期にまとめて仕入をしていないか
    3. 繰延税金資産はどのくらいあるか
    4. 有形固定資産の額はいくらか
    5. のれん代の額は大きくないか、償却期間は何年か
    6. 繰延資産という項目があるか。あるとしたらどのくらいの額か
  • 連結調整勘定とのれん代の合計が自己資本よりも大きな会社は、貸借対照表の質に問題があるサイン
  • 社債を発行する会社は財務制限条項が課されるため、企業によっては抵触するのを避けるために利益の捻出を始める。特に転換社債では、株式に転換するための転換価格が決められているため、なるべく株価を高くしておきたいと考える。
  • 法人税率が30%台後半を切るようであれば、その会社は税務署ですら利益と認められないような利益を入れている可能性がある