図でわかる会社法/柴田和史

会社法の概要の図解。
基礎的な内容。


【目次】
第1章 会社の種類と設立についての法律
第2章 株式と株主
第3章 会社の機関:株主総会
第4章 会社の機関:取締役、監査役
第5章 資金調達、計算書類
第6章 企業結合、解散・清算



【概要】
第1章

  • 会社法上の会社は4種類
    1. 株式会社
    2. 合資会社無限責任有限責任
    3. 合名会社:無限責任
    4. 合同会社
  • 株式会社の設立方法
    1. 発起設立
    2. 募集設立
  • 預合:払込取扱銀行から資金を仮、その金を株式の払込金として同じ銀行に払い込み、借入金返済まで引き出さないことを銀行と約束する行為。帳簿上の操作のみで行われ、実際の金銭の移動はなく違法。

第2章

  • 定款に定めを置くことで種類株式を発行することができる
    1. 剰余金の配当額、配当条件等について異なる種類株式(配当優先株式、劣後株式)
    2. 残余財産の分配額、分配条件等について異なる種類株式(残余財産請求権の優先株式、劣後株式)
    3. 議決権制限種類株式・無議決権種類株式
    4. 譲渡制限付種類株式
    5. 取得請求権付種類株式
    6. 取得条項付種類株式
    7. 全部取得条項付種類株式
    8. 拒否権付種類株式
    9. 取締役・監査役の選解任権付種類株式
  • 株式会社は原則有限責任であるが、正義・公正の見地から法人格否認の法理を用いて、債権者が株主に請求を行うケースがある

第3章

  • 会社法上では、社員とは法人への出資者を指し、株式会社においては社員といわずに株主という

第4章

  • 取締役が職務を行う際には、善管注意義務に従う必要がある、ただしリスクを伴う意思決定を行えるよう、ビジネスジャッジメントルールが認められる、適用要件は以下の3つ
    1. 決定に必要な情報を十分に収集すること
    2. 情報を熟知したうえで取締役会で十分に議論すること
    3. 会社の利益になると考えて決定すること
  • 執行役員は取締役でも会社法上の役員等でもないので、会社法の取締役・役員等に関する規定が適用されることはない
  • 会計参与は、取締役と共同して、計算書類およびその附属明細書、臨時計算書類、連結計算書類を作成する。会計参与は公認会計士監査法人、税理士、税理士法人のいずれかでなければならない
  • 指名委員会等設置会社は、アメリカの会社法を規範とし、弾力的で迅速な業務執行と監査委員会および取締役会による充実した監査・監督の実現を目的とする
  • 指名委員会等設置会社には、株主総会、取締役会、指名委員会、監査委員会、報酬委員会、執行役、代表執行役が置かれ、監査役代表取締役は存在しない

第5章

  • 会社が授権株式数の範囲内で募集株式の発行を行うときは、適当と思われる募集株式の申込人に割り当てることができる
  • 会社は事業年度ごとに以下の書類を作成
    1. 貸借対照表
    2. 損益計算書
    3. 株主資本等変動計算書
    4. 個別注記表
    5. 上記計算書類の附属明細書
    6. 事業報告
    7. 事業報告の附属明細書
  • 剰余金の額 = その他資本剰余金の額 + その他利益剰余金の額
    剰余金の分配可能額 = 剰余金の額 - 自己株式の帳簿価額
  • 剰余金の分配可能額を超えて配当された場合、違法配当となり取締役会に責任が生じる

第6章

  • 株式交換とは、存在している2社以上の株式会社間で株式交換契約を締結することにより、一方の株式会社の株主が有するその会社のすべての株式を他方の株式会社の株式と交換するもの
  • 株式移転とは、完全親会社となる会社が存在していない場合に、1つの手続きにより完全親会社を設立し、同時に株式交換を行い、既存の会社を新設する会社の完全子会社にする制度
  • 特別支配株主は、他の株主が有するところの株式を自己に強制的に売り渡すことを請求できる

企業分析力養成講座/山口揚平


企業の分析手法を外部環境・内部環境、ビジネスマーケット・キャピタルマーケットの2軸から、整理・解説。
構造に特徴のある企業を例にとって、それぞれの分析方法を解説する。
専門的な内容というわけではないが、企業を分析する際に外部環境が内部環境に与える影響や、財務が事業に与える影響、それぞれの位置づけを概観したうえで把握することができ、わかりやすい。

【目次】
ガイダンス
case1 スターバックスコーヒージャパン
case2 三菱地所
case3 創通
case4 ビックカメラ
case5 GABA
case6 JR東日本
case7 横浜銀行
case8 ミクシィ
case9 任天堂

【概要】

  • PLの順序が分配を受ける順番を示している。原価は仕入先、販売管理費は従業員、支払利息は銀行、税金は国、そこで残った利益が役員に分配され、最後に株主の取り分が残る。
  • コングロマリッド企業の場合、どこが収益の源泉なのかを見極め、分析するポイントを絞ることが重要
  • 投資家は、B/Sを以下の4つに分解して考える。
    1. 事業用資産:棚卸資産、在庫については六掛け程度の評価が必要。
    2. 非事業用資産:余剰の現金や事業に使っていない土地、有価証券など。
    3. 運転資本:仕入れから代金回収まで必要なつなぎ資金。運転資本=棚卸資産-買掛金=コスト
    4. 調達資本:事業を行ううえで調達資金。企業の資産の持ち主を示す。
  • 通常の事業では、売上とともに利益が伸び、キャッシュが生み出され、そのキャッシュを再投資することで事業が拡大する。アニメ産業では、投資から回収までのスパン(期間)が著しく長く、必要な運転資金が大きくなるからである。
  • 企業価値が10倍になるとすれば、といった過程を置き、その実現可能性を検討する方法をバックキャスティングと呼ぶ。
  • ビジネスシステムとは事業を機能別に分解し、競合との差別化策などを考えやすくするフレームワーク。ある事業に関連する機能を漏れなく細分化することで、問題点が発見しやすくなる。差別化を図るアプローチには、ビジネスシステム全体を通して再構築するか、ビジネスシステムの一部に働きかけて強化するかの2つのアプローチが考えられる。
  • 小売業の競争の本質が、まずは「スケール(規模・範囲)」にあるため。小売業とは、商品を製造せず個人消費者のために商品の販売に特化する業種である。そのため独自の商品を販売することが難しく、商品での差別化ができず、結果として価格競争に陥りがち。
  • GABAもNOVAも基本的にはまず生徒からお金を預かる仕組み。これが前受金として流動負債に載っている。この使い方が、NOVAは債権や在庫、固定資産に化けていた、そのために授業料の返還請求に対応できなかった。このような業務形態をとっている会社の「前受金」の増減は業績のよしあしの先行指標になる。
  • キャッシュフローは長い期間で見る必要がある。最低で5年間、できれば10年間のキャッシュフローの動きを見なければならない。
  • 営業キャッシュフローと投資キャッシュフローの2つを足したものをフリーキャッシュフローという。財務キャッシュフローはその2つの調整弁
  • 投資キャッシュフローは成長期には基本的にマイナス。投資の結果キャッシュを稼げるようになると営業キャッシュフローとしてリターンが産み出される。
  • 利上げが行われる局面では、銀行の収益は減少し、利下げ局面においては増加する。これは金利が上がると資金需要が減るため。
  • 銀行のB/Sに有利子負債はない。一般の事業会社の場合は事業用の資産・負債と経営の土台となる資産・負債を分けて扱う。しかし、銀行の場合、負債も資産も、すべて貸し出しをするための原資であるという考え方をとる。(デットフリー)
  • 銀行のPLには営業利益の概念はない。売上高に相当する部分が経常収益、売上原価・販売管理費に相当する部分が経常費用。通常、営業利益に金融収支を入れて経常収支を見るが、銀行の場合すべてが金融収支であるため。
  • 一般事業会社の企業価値評価においては、事業価値に費事業用試算を足し、有利子負債を引くと定義できる。銀行の場合、冬季純利益あるいは経常利益から税金を引いた数を割引率で割り引くのが簡易的な方法として一般的。
  • ソロスの投資法は、「再帰性」という独自の理論に基づいている。
    1. 市場はいつも間違っている
    2. 間違い(バイアス)は、ときに将来の「現実」に影響を与える
    3. そのため、トレンドは続き、ブームは起こる
    4. 現実と期待の乖離が臨界点に達すると、株価は破裂する

道具としてのファイナンス/石野雄一

道具としてのファイナンス/石野雄一


ファイナンスの理論よりも使いこなすことに重点を置き、
この本の内容をマスターすればMBAホルダーよりもファイナンスが使えるようになる、
MBAホルダーが書いた本。

附属のExcelまでもれなく自分でやってみれば、かなりの理解が深まることは間違いない。


【目次】
序章 ファイナンスの武者修行
第1章 投資に関する理論
第2章 証券投資に関する理論
第3章 企業価値評価
第4章 企業の最適資本構成と配当政策
第5章 資本市場に関する理論
第6章 デリバティブの理論と実践的知識
第7章 ブラック=ショールズ・モデル


【概要】
序章

  • 世間では、運用サイドのリターンばかり気にする風潮があるが、調達サイドのコストがわかっていないと「儲かっているか」の判断はできない
  • 企業が行う意思決定は大きく分けて以下の3つであり、ファイナンスの役割もこの3点にある。これらの意思決定の先にあるものは企業価値の最大化
    1. 投資の決定:調達した資金をどこに・いくら投資すべきかという意思決定
    2. 資金の調達:投資のための資金を、どこから・どのように調達してくるかという意思決定
    3. 配当政策:株主に対して、資金をどのような形態で、いくら還元すべきかという意思決定

第1章

  • 将来価値:X円を年利r%で運用すれば、n年後の将来価値は、X*(1+r)^n
  • 現在価値:n年後に受け取るX円の現在価値はX/(1+r)^n
  • 永久債の現在価値:PV=C/r ※Cは毎年のキャッシュフロー、rは割引率
  • 成長型永久債の現在価値:PV=C/(r-g) ※gはキャッシュフローの毎年の成長率
  • ある資産の価格は、その資産が将来生み出すキャッシュフローの現在価値の合計に等しい
  • 割引率には、そのキャッシュフローのリスクの程度と期間に照らしてみて妥当な金利を設定する
    国債の利回りにリスクプレミアムを乗せる
    正解は無く、実務では感度分析を行う
  • 投資判断指標の例
    1. NPV
    2. 資金回収期間ルール:予測されたキャッシュフローの合計が初期投資額と同額になるまでの期間
    3. 内部収益率
  • 投資判断指標として用いられるNPVは「将来のキャッシュフローの現在価値の合計額から当初の投資金額を差し引いたネット額」
  • 資金回収期間ルールの課題は以下の3点
    1. 基準年数のあとのキャッシュフローを無視していること
    2. 資金回収期間中のキャッシュフローの時間的価値を考慮していないこと
    3. 基準年数をどう設定するかは、企業の判断にかかっていること
  • 収益性インデックス:キャッシュインフローの現在価値/キャッシュアウトフローの現在価値
  • 内部収益率とはNPVがゼロとなる割引率を指し、割引率を予め決める必要がない点がNPVよりも簡易であり、よく用いられる
  • 内部収益率を使って投資案件を選択する場合は、比較する投資案件が、他の投資案件よりもリターンが高いこと、双方のプロジェクトのリスクが同程度であることが前提となる
  • 投資案件の相互比較では、NPVルールとIRRルールのそれぞれで結果が異なる場合がある。その場合、NPVルールの結果を採用すべき(内部収益率はプロジェクトの規模の違いを反映しない弱点がある)
  • キャッシュフローの符号の変化と同じ数のIRRが存在する
  • 内部収益率の弱点
    1. プロジェクトの規模を反映しない
    2. キャッシュフローによっては内部収益率が複数存在したり、解が存在しない場合もある
    3. プロジェクト期間中の割引率の変化に対応できない(プロジェクト期間中のキャッシュフローはIRRで再投資されると仮定される)
  • 資本制約がある場合には、収益性インデックスが大きい順に予算枠に達するまでプロジェクトを選択する
  • 期間が異なるプロジェクトを比較する場合、NPVルールでは長期間のプロジェクトが有利となるバイアスがかかる
  • With-Withoutの原則:投資判断するためにはプロジェクトを実施した場合のキャッシュフローと実施しない場合のキャッシュフローを比較すべき
  • ワーキングキャピタル:キャッシュの回収と支払のタイミングのずれを埋め合わせるために必要なキャッシュ
    流動資産-(流動負債-短期借入金)
  • ワーキングキャピタルは実務上は以下のように計算
    売上債権(売掛金受取手形)+在庫-支払債務(買掛金・支払手形)

第2章

  • ファイナンスの世界では、リスクとは予想することができない「不確実性」をいう
  • 実務上では、ボラティリティ標準偏差を指し、標準偏差が大きいほどリスクが高いといえる
  • 正規分布の性質
    1. 正規分布は、平均μを中心に左右対称になる
    2. 正規分布は、平均μのところで一番高くなり、中心から離れるにしたがって限りなく下の線に近くなる
    3. 正規分布のカーブの下の面積は形にかかわらず、どれも1になっており、分布のカーブの下の面積は確率を示している
    4. 平均から左右に標準偏差1つ分の区画、つまり、「平均値±標準偏差*1」の区間にデータが入る確率は68.26%である
    5. 平均から左右に標準偏差2つ分の区画、つまり、「平均値±標準偏差*2」の区間にデータが入る確率は95.44%である
    6. 平均から左右に標準偏差3つ分の区画、つまり、「平均値±標準偏差*3」の区間にデータが入る確率は99.74%である
  • 標準偏差を平均で割り、100をかけてパーセント表記したものが変動係数。相対的なばらつきを表す指標の1つ
  • 2変数の相関関係の方向を示す指標として、共分散という統計量を使う
    1. それぞれの株式の偏差(リターンと平均値の差)を計算し、それを掛け合わせる
    2. それらの掛け合わせたものの平均値を算出する
  • 相関係数は、共分散を2つの変数の標準偏差の積で割って求められ、一般的に以下の水準
    1. ±0.7〜±1:強い相関がある
    2. ±0.4〜±0.7:中程度の相関がある
    3. ±0,2〜±0.4:弱い相関がある
    4. ±0〜±0.2:ほとんど相関がない
  • 同じリスク(標準偏差)をとる場合に、そのポートフォリオよりも優れたポートフォリオが他にないことを効率的といい、効率的なポートフォリオが集まったものを効率的フロンティアと呼ぶ
  • リスクフリーレートから効率的フロンティアに接する線は資本市場線と呼ばれ、この直線が最も効率的となる。このときの接点にあるポートフォリオをマーケットポートフォリオと呼ぶ
  • シャープレシオポートフォリオがリスクに見合った運用実績をあげているかをみる指標で、分子はリスクプレミアム、分母にリスクをとる
  • βが0や1以外の値をとるときのリスクプレミアムは、資本資産評価モデル(CAPM)によって答えられる。CAPMによればすべての資産のリスクプレミアムは、その資産のβに比例する
  • 効率的市場仮説:市場で決定される株価はその時点で利用可能な全ての情報を反映しており、過去の株価の推移から将来の株価を予想することはできない
    1. weak-form:マーケットの株価には、過去のすべての情報が反映されている
    2. semistrong-form:マーケットの株価には、過去の情報に加えて、現時点で公表されているすべての情報が反映されている
    3. strong-form:マーケットの株価は公表されているか否かを問わず、すべての情報が反映されている

第3章

  • CAPMによる株主資本コストの算出方法:E(r)=rf+β[E(rm)-rf]
    1. リスクフリーレートには10年国債の利回りを用いる
    2. マーケットリスクプレミアムは長期間にわたる株式の平均収益率とリスクフリー資産の平均収益率の差として定義
      リスクフリーレートや株式市場の国の設定により変動
    3. βの回帰分析には最低5年間分はデータが必要
    4. 株式のリターンは実務上は月次・週次(日時では取引されない日が含まれ、βが実際より低く計算される)
  • FCF=NOPAT+減価償却費-設備投資-ワーキングキャピタル増加額
    FCFからは企業が営業活動からどれだけのキャッシュを生み出すことができるのかを把握する
  • 企業価値=株式時価総額+Net debt(有利子負債-現金および現金同等物
  • DCF法とは、事業の価値は、企業が将来生み出すFCFの現在価値の合計に等しいとする方法
  • DCF法で企業価値を割り出す手順
    1. WACCを計算する
    2. FCFを予測する
    3. 継続価値を求める
    4. FCFと継続価値をWACCで現在価値に割り引き、事業価値を求める
    5. 遊休土地や有価証券、現金などの非事業資産を時価評価し、非事業価値を求める
    6. 事業価値と非事業価値を加えて、企業価値を計算する
    7. 企業価値から負債額を控除して株式時価総額を求める
    8. 発行済み株式総数で割ることによって理論株価を計算する
  • FCFを増加させる要素
    1. EBITの増加(売上増加・コスト削減)
    2. 減価償却費による節税(早いタイミングで一括計上することで法人税の現在価値を高める)
    3. 投資の選別(効果的な投資を選別)
    4. ワーキングキャピタルの管理(売上債権と在庫を圧縮し、支払債務を大きくする)
    5. WACCの低下(最適資本構成の実現)
  • 株主資本コストを考慮するための指標として、EVA(Economic Value Added)が登場。企業は資本コスト以上の税引後営業利益を生み出すことができれば、企業価値を高めることができることを表す
  • EVA=NOPAT-投下資本*WACC
  • NOPATと投下資本を別々に捉えずに表すと
    EVA=(ROIC-WACC)*投下資本
    WACCを上回る投下資本利益率をもたらす事業にのみ投資することが重要

第4章

  • 財務レバレッジには、ROEを高める働きと同時にROEの期待値のばらつき(リスク)を高めるという働きがある
  • MM理論の第一命題:税金や取引コストなどがない完全資本市場では、資本構成は企業価値に影響を与えない
    1枚のピザを2つに切っても4つに切っても、ピザ全体の価値は変わらない
  • 法人税がある場合は、負債を利用すると支払利息の節税効果の現在価値分だけ企業価値が高まる
  • 最適資本構成は負債の持つ節税効果と財務破綻コストとのトレードオフ(資本構成のトレードオフ理論)
  • コベナンツは企業活動の柔軟性を減らすが、結果的にエージェンシーコストを引き下げることで企業価値を高める
  • 企業が資金調達を必要とするときは、まず内部資金を利用し、外部資金調達が必要な場合は、最も安全な証券から発行すべき(ペッキングオーダー理論)
    内部留保⇒銀行借入⇒普通社債転換社債普通株式
  • MMの配当無関連命題:株主価値は、配当政策とは無関係

第5章

第6章

IFRSのしくみ/有限責任 あずさ監査法人 IFRS本部


IFRSの概要から、資産・負債、収益・費用の取扱い等を解説。
詳細な実例にまでは踏み込まないが、概要を理解する必要がある場合には良いか。


【目次】
第1章 IFRSの概要
第2章 IFRSの考え方
第3章 IFRSの財務諸表
第4章 資産をめぐる規定
第5章 負債をめぐる規定
第6章 企業結合と連結財務諸表
第7章 金融商品と外貨建取引
第8章 収益・費用その他の規定


【概要】

  • IFRSの適用状況
    EU 連結財務諸表に強制適用(2005年)
    アジア諸国(中国・韓国等) IFRSベースの自国会計基準を導入(2007年)
    米国 外国企業は米国基準の差異調整表なしで財務諸表提出可能
    国内企業はUS GAAPのみ
    IFRS採用にかかる意思決定は未了
    日本 要件を満たす上場企業はIFRS任意適用
    単体は日本基準のみ(確定決算主義前提の税務上の取扱い等が課題)
  • IFRSの特徴
    1. 資産負債アプローチ。資産・負債の増減から、収益・費用を算定する。
    2. 原則主義。産業別の詳細なガイダンスは存在しない。
    3. 公正価値重視。測定日における、市場参加者からみた、出口価格を公正価格という。(取引コストは考慮しない)
  • IFRSにおける財務諸表の構成要素
    IFRS 日本基準
    財政状態計算書 貸借対照表
    純利益及びその他の包括利益計算書 損益及び包括利益計算書
    株主持分変動計算書 株主資本等変動計算書
    キャッシュフロー計算書 キャッシュフロー計算書
    注記 注記
  • IFRSの財務諸表の特徴
    1. 特別損益の区分なし(経常損益の表示なし)
    2. 費用項目の分類は性質別(売上原価、販管費等)のほか、機能別(原材料費、人件費等)も認められる
    3. 流動性配列法のほか、固定性配列法も認められる
  • IFRSでは注記で以下の項目に関する詳細な開示を実施。
    1. のれん:期首から期末までの帳簿価額の調整表(残高・追加・減損等を含む)
    2. 公正価値:公正価値で測定される資産・負債等
    3. 金融商品:リスクの定性的情報および定量的情報
  • 事業セグメントは以下のすべてに該当するものをセグメントとして定義し、損益、資産、負債等の額を開示。財務諸表との調整表もあわせて開示。
    1. 収益を獲得し費用を負担する事業活動に従事
    2. 企業の医師決定者が資源配分の意思決定および業績評価の目的で経営成績を定期的に検討
    3. 分離した財務諸表を入手可能
  • 適用初年度は、比較対象期間として前期分の財務情報もIFRSに基づいて作成することとなり、前期がIFRS移行日となる。
    また、可能な限り過年度に遡ってIFRSを適用し、移行日までの累積的影響額を利益剰余金の調整として認識する必要がある。
  • IFRSの遡及適用の免除規定として、企業結合については従前の基準に基づく数値を引き継ぐことが可能。また、過年度に行われた見積りは現在の情報に基づいて修正されるべきではないため、遡及適用が禁じられる。
  • 資産に関する特徴(特に日本基準との差異)      
    棚卸資産 原価に、購入原価、加工費だけでなくその他の原価を含む
    評価減の原因がなくなった戻し入れ
    有形固定資産 交換により取得した場合の取得原価は、引き渡した資産の公正価値
    取得原価には購入価格、稼動等にかかる費用、資産除去費用を含む
    原価モデルか再評価モデルのいずれかで事後測定
    コンポーネントアカウンティング 有形固定資産のうち、重要な構成要素は別々に減価償却を実施
    無形資産 取得原価で当初認識。原価モデルか再評価モデルで事後測定
    耐用年数が有限であれば規則的に償却。そうでなければ減損テスト
    自己創設無形資産 研究:発生時に費用処理
    開発:要件を満たす場合認識
    投資不動産 公正価値モデルか原価モデルのいずれかで会計処理
    減損 グルーピングの単位が細かくなる可能性あり
    グルーピング単位はキャッシュインフローで判断
    減損損失の認識 回収可能価額と帳簿価額を比較、回収可能価額が下回れば減損
    戻入れの兆候があれば戻入れを実施
    のれん 償却せず毎期減損テストを実施
    売却目的の非流動資産 減価償却をストップ
    帳簿価額と売却費用控除後の公正価値のいずれが低い金額で測定
  • 負債に関する特徴(特に日本基準との差異)
    退職後給付 確定拠出では、日本と同様拠出を費用計上
    確定給付では、過不足を財政状態計算書上で認識。積立超過の場合、企業が利用可能な範囲で計上
    数理計算上の差異は純損益ではなくその他の包括利益に含める
    退職給付以外の従業員給付 短期従業員給付は費用計上
    解雇給付は給付の性質に応じて計上時期が異なる
    その他の長期従業員給付は積立状況を資産・負債として計上
    引当金 現在の債務があること、経済的便益を持つ資源が流出する可能性が高い、金額を信頼性をもって見積もることができるという要件で判断
    修繕引当金等は現在の債務ではないため、引当金として負債に計上できない
    資産除去債務 引当金の一種として処理
    相手勘定は有形固定資産または棚卸資産(発生原因で判断)
  • 連結に当たっては、親会社・子会社の決算日は原則統一。異なる場合、子会社は連結決算のために追加的な財務諸表を作成。但し、実務上困難な場合、3ヶ月以内の財務諸表を利用可能。
  • 取引ごとに収益認識の会計処理を実施。マイレージやポイント収益の繰延が必要(引当金での対応が不可)
  • サービスの提供は信仰基準で会計処理。完成基準は認められない。

決算書の暗号を解け!/勝間和代


個人で株式投資を行う人向けに決算書の読み方の基礎を説明した本。
会計利益が1つの事実ではなく、操作可能であるという前提に立ち、
財務3表のそれぞれでどういった操作がなされうるか、という観点から読み方を説明する。

株式投資に限らず、財務諸表の読み方の入門としてわかりやすくまとめられている。

財務3表をどれか1つずつで見るのではなく、関係性で読むことの重要性を
何故会計上の利益操作がされうるかという企業側のインセンティブ等、
背景の説明とあわせて理解できる。


【目次】
第1章 会計利益を信じてはいけない!
第2章 財務諸表はこう読み解く
第3章 インチキ利益を見抜くための下準備
第4章 アナリスト目線で全体のイメージをつかむ
第5章 会計士目線で財務諸表を読みこなす
第6章 投資家目線で判断する

【抜粋】
第1章

  • 日本のマーケットで、株価にもっとも影響を与える要因は、経営者による「業績予想」といわれる。決算短信の表紙の一番下に業績予想が書かれるが、これはアメリカなどにはない制度。

第2章

  • 貸借対照表は、どこからお金を借りてきて、いま何に投資しているのかという「ビジネスの源泉」を表している。
  • 資産の部に載る固定資産は、その値段で売れるという意味ではなく、あと○円分償却しなければならない、ということしかわからない。「資産」というよりは「これから費用化される項目の覚書に過ぎない」ということになる。
  • 資産には以下の3つのタイプがある
    1. 本当に額面どおりの価値があるもの:現金、預金、有価証券 等
    2. 額面どおりの価値があるか不明なもの:売掛金受取手形棚卸資産 等
    3. いずれ費用化するもの:固定資産、繰延資産 等
  • 負債には以下の2つのタイプがある
    1. いわゆる借金:買掛金、借入金、社債 等
    2. 費用の見越し計上・利益の繰延:引当金、前受収益 等
  • 投資キャッシュフローは営業キャッシュフローの黒字の範囲内でまかなうのが理想的。あまり儲かっていない会社は財務キャッシュフローからもお金を持ってこなければならなくなる。
  • 発生主義のもとで利益を捻出するのならば、認められた会計基準の範囲で、収入をなるべく前倒しで計上し、費用をなるべく先送りして計上すればよい。
  • 利益の質を見抜くためには、現金利益と会計利益の差額(会計発生高:アクルーアルズ)を見る方法がある。
  • 会計発生高=(当期純利益+特別損失−特別利益)−営業キャッシュフロー
  • 利益の質を見抜く2つ目の方法はROA。利益の絶対額が上がっているのにROAが継続して下がっているような場合は要注意。ROAは通常、3〜15%程度の小さい値なので、少しの差異でも気にする必要がある。

第3章

  • 収益を前倒しする具体的な方法の例
    1. 顧客がまだ支払い義務を負っていない段階で収益を計上する
    2. 顧客と複数年にわたる契約をして、本来は複数年に分割して計上しなければならない売上を前倒しで計上する
    3. 利害関係者などの仲間内に販売する
  • 収益を前倒しした場合、損益計算書上の「売上」・「利益」が増加する。貸借対照表では、期末になって売掛金が増え、資産の部が膨らむ。売上高や営業利益が増えても営業キャッシュフローは増えず、キャッシュ上は当期純利益から大きく減額となる。
  • 費用の計上を先送りする具体的な方法亜の例
    1. 費用を資産として計上する
    2. 償却をなるべくゆっくり行う(償却期間をできるだけ長くする、定率法ではなく定額法を使う)
    3. 減損資産の評価減または償却を見送る
    4. 引当金を十分に積まない
  • のれん代は日本の会計基準では2-20年で定期償却するよう求められている。守備的利益調整(利益隠し)を行っている会社は2-5年、攻撃的利益調整(会計操作)を行う会社はギリギリの20年で償却を行う。
  • 資産をふくらませる具体的な方法の例
    1. 含み益がある株式や土地を市場で売って利益の捻出をする
    2. 含み益がある自社の土地や建物を売ってリースバックする
    3. M&Aなどのときに固定資産を再評価して、自社に都合の良い費用や収益を計上する
  • 負債をなるべく計上しない具体的な方法
    1. 引当金をなるべく計上しない
    2. これまで積み立てておいた引当金を本来の目的外の理由で取り崩す

第4章

  • 健全な業績とは、コンスタントに利益が伸び、かつ営業キャッシュフロー内で投資キャッシュフローをまかなっている。ダメな業績とは毎年同じビジネスをしているはずなのに期によって業績がばらばら。
  • 運転資本が必要な事業形態の場合、売上が伸びている会社の営業キャッシュフローは業態により、マイナスならマイナスが継続、プラスならプラスが継続。マイナスになる典型例はソフトウェア開発業、売掛金の回収までの期間が長く、買掛金や人件費はすぐに払わなければならない。スーパーマーケットは逆で、仕入先には買掛金で取引する一方、買い物に来るお客さんにはたいてい現金で支払ったもらえるため、手元には現金が残り易い。
  • 営業キャッシュフローは、税引前当期純利益減価償却費−法人税に近くなる。減価償却費が小さい会社であれば、営業キャッシュフローは営業利益の60%くらい、減価償却費が大きい会社であれば営業利益の120%くらいになる。

第5章

  • 貸借対照表のチェックポイント
    1. 売掛金受取手形の額がふくらんでいないか⇒キャッシュの裏づけが無い利益を計上していないか
    2. 棚卸資産の額がふくらんでいないか⇒欠品をなくすため、売上原価を下げるために当期にまとめて仕入をしていないか
    3. 繰延税金資産はどのくらいあるか
    4. 有形固定資産の額はいくらか
    5. のれん代の額は大きくないか、償却期間は何年か
    6. 繰延資産という項目があるか。あるとしたらどのくらいの額か
  • 連結調整勘定とのれん代の合計が自己資本よりも大きな会社は、貸借対照表の質に問題があるサイン
  • 社債を発行する会社は財務制限条項が課されるため、企業によっては抵触するのを避けるために利益の捻出を始める。特に転換社債では、株式に転換するための転換価格が決められているため、なるべく株価を高くしておきたいと考える。
  • 法人税率が30%台後半を切るようであれば、その会社は税務署ですら利益と認められないような利益を入れている可能性がある


管理会計/櫻井通晴

管理会計の続き。
第2部は企業の利益計画等、予算管理のあり方に関する章。
予算管理の基礎から、スループット会計までの流れを概観。

第3部は原価管理。コスト削減はもう少し実務に基づかないと理解が難しいか。

第4部は意思決定への管理会計の利用について。こちらも理論によりすぎて理解が困難か。

第2部

  • 利益計画の指標として、一般に投資利益率、期間利益額、売上利益率の3つの指標が知られている。中でも、投資利益率が最も理論的に優れた指標とされる。投資利益率は売上収益性を表す売上利益率と資本効率を羅和す資本回転率の積として表される最も総合的な指標だからである。
  • 日本企業で戦後の回復期から高度成長期にかけて最も多く用いられてきたのは、経常利益や営業利益などの期間利益額であった。十分な投資利益率が得られなくても、一定の利益さえあれば借入金によって積極的な投資をすることによって、インフレによるキャピタル・ゲインを得られたことが主たる原因と考えられる。
  • 結果に先行する先行指標のうち、注目されているものには次のものがある。市場占有率の伸び率、新製品開発比率、特許権出願件数、リサイクル率、工場の稼働率スループット、生産計画の達成度、業務改革の遂行度、製品の品質、納期順守率、顧客満足度従業員満足度など。
  • 予算を設定するのは以下の3つの目的による。
    1. 計画設定と責任の公式化
    2. 調整と伝達
    3. 動機付けと業績評価
  • 販売に関連する予算のうちで主要なものは売上高予算と販売予算(特に販売促進費)である。売上高予算は、経済予測、市場調査、販売分析を基礎に、予算期間の売上高を予測する。販売費予算は、販売促進費、物流費および販売管理費等に分けて編成する。
  • 売上高予算が編成されると、それにもとづいて生産計画が確定される。生産計画はまず数量で示され、期首在庫+生産数量−売上数量の関係から、期末在庫が決定される。
  • 製造費用予算は、生産計画をもとに直接材料費、直接労務費、直接経費および製造間接費といったように個々の原価要素別に製造原価が積み上げられる。直接材料予算が編成されれば、材料費の所要量が決定されるため、購買予算が編成される;.
  • 資金予算は財務予算とも呼ばれ、運転資本予算、現金収支予算、信用予算を内容としている。
    1. 運転資本計画:資金計画表を作成。資金計画表では、資金の源泉から資金の使途を差し引いて、運転資本の増減額が計算される。借入金の返済計画、増資計画、固定資産や在庫への投資計画が検討される。
    2. 現金収支計画:資金繰計画表を作成。前期繰越高に収入を加えて、支出を差し引くことによって収支過不足を計算。
  • 予算管理の欠点として以下の3点が挙げられる。
    1. 予算は弾力性に欠ける。
    2. 予算編成とコントロールには手間とコストがかかる。
    3. 経営の速度についていけない。
  • 全部原価計算では、直接材料費、直接労務費、直接経費、製造間接費の全ての製造原価をもって製品原価を計算する。
  • 直接原価計算では、原価を変動費と固定費に区分し、変動製造原価だけをもって製品原価とする。製造間接費の配賦に恣意性が介入するという問題点が解決でき、利益が売上高と対応関係をもつために、経営者の思考に合致する。
  • 直接原価計算では、固定製造原価を製品原価に負担させない。つまり、固定製造原価は当期の費用として処理し、全部原価計算のように棚卸資産原価としては処理しない。そのため、全部原価計算と直接原価計算では、期首と期末の棚卸資産の差額だけ営業利益が異なる。
  • 固定費は物的・人的・組織的キャパシティを準備し維持することに関連して発生するキャパシティコストといわれる。キャパシティコストはコミッテドコストとマネジドコストに分類される。
  • コミッテドコストは、減価償却費、固定資産税、役員給料、賃借料、火災保険料のように物的・人的・組織的キャパシティを準備することから発生する原価。短期的には管理が難しい。
  • マネジドコストは、広告宣伝費や交際費のように経営者のポリシーによって決まるポリシーコストと監督者給料のように経営能力を維持することから発生するオペレーティングコストからなる。
  • TOC(制約理論)は、営利企業のような羅揺るシステムには少なくとも1つの制約があるので、その制約を排除することで以下にキャッシュフローを増大させてお金を儲けることができるかに向けられている。TOCにおける会計の核がスループット会計である。
  • ゴールドラットによれば生産システムで重要なことは、キャッシュフローの増大、業務費用の削減、在庫削減の3つ。
  • スループットはシステムが売上高を通じて貨幣を生み出す比率。業務費用はシステムが棚卸資産スループットに変えるのに消費するすべての貨幣。資産ないし在庫は販売を意図してシステムが購入するのに投資するすべての貨幣。

第3部

  • 標準原価計算の目的は能率管理。予算編成や価格決定をはじめとする経営意思決定に科学的基礎データを提供
  • 標準原価計算は以下のような条件の企業に適する
    1. 生産の標準化が行われ、生産条件のあまり変わらない企業
    2. 大量生産が行われている企業
    3. 労働集約的な企業
  • 標準原価計算の限界
    1. 生産条件一定という条件に合わない企業の増加
    2. 自動化により現場から作業員がいなくなった
    3. 品質への悪影響
  • 原価企画の主要目的は総合的な原価低減。経営戦略を実現するための利益管理の手段である。
  • 原価低減活動を生産の企画段階で行う(源流管理)
  • 営業費は、販売促進費、物流費、一般管理費の3つに区分される
  • 物流費の中心的な費目は輸送費、保管費、包装費

第4部

  • 意思決定とは、代替案のなかからの選択であり、以下のプロセスをたどる
    1. 問題の識別と明確化
    2. 問題解決のための諸代替案の探索と列挙
    3. 諸代替案の計量化ないし意思決定モデルの作成
    4. 諸代替案の評価
    5. 経営者による裁決
  • 意思決定のために行われる変動値のみについての分析を増分分析と呼ぶ
    増分利益=増分収益-増分原価
  • 増分分析にとって最も障害になるのは製造間接日と共通費の配賦。これは製造間接費の配賦率の計算や共通費の配賦計算が全体の製造間接費の平均値に基づくため。
  • 意思決定に用いられる原価の種類
    1. 機会原価:代替案のうちの1つを受けいれ、他を断念した結果失われる利益
    2. 増分原価:意思決定の結果変化する原価
    3. 埋没原価:意思決定に関係のない原価
  • 資本予算は企業の主要な投資プロジェクトの識別、評価、採択および資金調達をするプロセス。資本予算の3つの課題は、設備投資計画、戦略/意思決定、予算/資金の計画
  • 設備投資意思に関するキャッシュフローは以下の3つ
    1. 原投資額:設備投資計画案を実現するために必要な正味キャッシュフロー
    2. 年々の増分利益:設備の経済命数にわたって得られる年々の正味キャッシュインフロー
    3. 処分時の正味増分キャッシュフロー
  • 設備投資の経済性計算
    1. 原価比較法:代替案を比較し、原価の低い投資案を採択
      年額原価=資本回収費+操業費
    2. 投資利益率法:平均利益と投資額との関係比率から採択
    3. 回収期間法:当初の投資額を回収するのに要する期間が短い案を採択
    4. 内部利益率法:内部利益率の高い案を採択
  • 価格決定のアプローチは経済モデル、会計モデル、マーケティングモデル、統計的アプローチの4つ
  • すくい上げ価格戦略とは、市場の利益をすくい上げるほどの高い水準で、製品またはサービスの価格を決定する戦略
  • スライドダウン価格戦略とは、長期的に下方にスライドさせていく。
  • 浸透価格戦略は市場への参入を図ったり、既存市場でのマーケット・シェアを広げるために低い価格をとること

管理会計/櫻井通晴

管理会計について網羅された教科書的な書。
読み進めるには分量的には辛いが、第1部の基礎部分は管理会計の概略が示されており、読み物として読むことができる。

まず第1部の概要。


【目次】
第1部 管理会計の基礎
 第1章 経営者のための管理会計
 第2章 企業価値創造のための管理会計
 第3章 事業部制による業績管理会計
 第4章 キャッシュ・フロー経営
 第5章 原価計算の基礎とIFRS
 第6章 IFRSの導入と管理会計
第2部 利益管理のための管理会計-経営計画とコントロールのための会計1
 第7章 中長期経営計画と利益管理・目標管理
 第8章 企業予算によるマネジメント・コントロール
 第9章 損益分岐点分析による収益性の検討
 第10章 直接原価計算による利益管理
第3部 原価管理のための管理会計-経営計画とコントロールのための会計2
 第11章 標準原価計算とコスト・コントロール
 第12章 原価企画による戦略的コスト・マネジメント
 第13章 ABCによる製品戦略、原価低減、予算管理
 第14章 戦略的コスト・マネジメント
 第15章 物流費、販売促進費、本社費の管理
第4部 経営意思決定のための管理会計
 第16章 経営意思決定会計
 第17章 戦略的意思決定と設備投資意思決定
 第18章 戦略的・戦術的価格決定
第5部 経営戦略のための管理会計
 第19章 経営戦略の管理会計への役立ち
 第20章 バランスト・スコアカードによる戦略マネジメント
 第21章 インタンジブルズの戦略マネジメント
第6部 管理会計の新しい課題
 第22章 組織再編と分権化の管理会計
 第23章 EVAによる経営効率の向上
 第24章 IT投資戦略とコスト・マネジメント
 第25章 研究開発費の管理会計

【抜粋】
第1章

  • 財務会計とは、期間損益計算を行って配当可能利益を算定、投資意思決定に必要かつ有用な情報を、投資家、債権者など、多様なステークホルダーに提供する会計。
  • 管理会計とは、経営戦略を策定し、経営上の意思決定とマネジメント・コントロールを通じて経営者を支援する会計。
  • 従来の日本の会計基準は、プロダクト型経済の前提で構築されていた。IFRSは、プロダクト型経済に加え、ファイナンス型経済とインタンジブルズ型経済モデルにも対応した会計基準である。
  • 株式時価総額から帳簿上の資産価値を差し引いた値が超過収益力であり、この超過収益力をのれんと呼ぶ
  • 企業価値が将来キャッシュ・フローを現在価値に引きなおしたものであるとする欧米での通説を、日本企業がそのまま受け入れるべきかについては以下の3点から議論の余地がある。
    1. キャッシュ・フローが真実を表すといっても、将来の収益の予測が適正であるかについて疑問の余地がないとはいえない。
    2. 計量化できない要素(ブランド価値、経営者と従業員の潜在的な能力等)が影響を及ぼす将来の価値までも含めて経済価値を測定することはできない。
    3. 企業の価値は経済価値だけではなく、社会価値や組織的価値も含まれる。
  • 経済環境の変化と主要な管理会計手法の変遷
    1. 戦後から1960年頃:能率向上(少ない資源を有効に活用) / QCの導入・標準原価計算の活用
    2. 高度成長期:量的拡大(規模の経済とシェアの拡大) / 損益分岐点分析、直接原価計算、設備投資の経済性計算
    3. 1973年頃から1990年代:現場の効果性重視(多品種少量生産のもとでの範囲の経済、バブルの時代に膨張した間接費の削減、) / 原価企画、社内金利制度、JITTQCなどの日本的現場管理の手法
    4. 1990年代から2000年頃:株主重視と効率 / ABCの普及、IFRSの導入、EVA、選択と集中、組織再編と分権化
    5. 2000年代以降:戦略的経営(戦略の策定と実行の必要性) / BSCの実践、インタンジブルズやコーポレートレピュテーションの重要性の高まり
  • 責任会計とは、会計システムを管理上の責任に結びつけ、職制上の責任者の業績を明確に規定し、管理上の効果をあげるように工夫された会計制度。責任会計では、責任センター(経営組織上の構成単位)に焦点を向けて、管理可能下にある業績の結果(実績)を計画値(予算)と対比・測定する
  • 典型的な責任センターは以下のとおり
    1. 原価センター(cost center):自己の管理下にあるセグメントで発生した原価についてのみ責任を負う組織
    2. 利益センター(profit center):原価責任だけでなく、アウトプットである収益の責任を評価対象に含められ、両者の差額としての利益に責任を負う組織
    3. 投資センター(investment center):原価と収益だけでなく、投資額も管理。使用資本の効率的利用も業績評価の対象となる組織
  • 多くの日本企業は財務尺度として経常利益を用いてきた。その理由は以下の3点。
    1. 経常利益は損益計算書から直接入手可能
    2. 公表財務諸表と整合性がとりやすい
    3. 資本構成が銀行借り入れを主体としていたため、金利を控除した後の利益が示されることが合理的
  • 経常利益を財務尺度として用いることの課題は以下の3点
    1. 投資効率を考慮しない
    2. 配当金や留保利益の機会原価等、株主のための数値が考慮されない
    3. グローバル性に欠ける
    4. IFRSが導入されると損益計算書から経常利益からなくなる可能性がある
  • アメリカでは投資利益率(ROI)を用いてきた。ROIの課題は以下の4点。
    1. 積極的な投資活動を行うと投資利益率は低下する
    2. 研究開発投資の効果もすぐには現れないため、投資をしにくくなる
    3. 上記により経済全体が沈下する危険性がある
    4. 四半期ごとに業績を評価される企業では経営が短期的視野になる
  • 経営組織内での経営管理上の責任・権限の以上の仕方には職能別組織と事業部制組織の2つの方法がある。職能別組織では、職能の各管理単位には原価責任や収益責任を負わされるが、利益責任までを問われることはない。事業部制では、原価責任や収益責任を個別的に負うのではなく、事業の総合的な利益責任を問われることになる。
  • 売上利益率法の最大の欠点は、投資効率の測定が無視されていることにある。ただし、トヨタ自動車かんばん方式棚卸資産コストの引き下げ)やパナソニックの内部金利制度(借入金の減少)等、売上収益性の管理と投資効率を向上させる方策を別々にもっていた。
  • 事業部に本社費を配賦した利益を管理する理由は以下の3点が考えられる。
    1. 配賦を行ってはじめて実質的な利益が算定できると考える経営者が多い。事業部利益によって本社費を補填しうるという事実がわかる。
    2. 価格決定のためには配賦された原価が必要だと考える経営者が多い。
    3. 本社費が配賦されていれば、本社費の不必要なまでの増大を防ぐことができる。
  • 本社費を一括して事業部に配賦する際の配賦基準としては以下の基準が用いられる。
    1. 売上基準:経済的な負担能力を基準にして配賦できる利点はある。しかし、たくさんの売上をあげるとそれだけ本社費を負担することとなり、売上拡大の意欲を減殺する危険性がある。
    2. 投下資本基準:本社費の多くが投下資本によって決定されるような倍には妥当。
    3. 人数基準:本社費の相当部分が人数との関連で発生することや人数を減らそうとする誘因が働くことからよく用いられる。人件費が用いられることもある。
    4. 公式法:上記の基準を重み付けした加重平均値から配賦。
  • 本社費には?総務・経理・人事のように配賦の難しい費用、?情報処理費や資材費のように事業部の業務を本社が代行しているとみなせる費用、?研究開発費や広告宣伝費のように本社と事業部の両者の業務を行ううえで発生する費用がある。?を配賦、?・?のうち直接賦課できる費用は賦課する場合もある。
  • 社内資本金制度を導入すれば、各営業部門内で、収益のある部門とない部門とがより明確に把握できる。各事業年度の損益が累積されることが最大の特徴であり、累積利益の分だけ借入金を減らすことができる。
  • 事業部間の社内振替取引には、社内振替価格の設定が必要となる。振替価格には、市価基準、原価基準、協定価格基準の3つの方式がある。
    1. 市価基準:市場価格が存在する場合には最も妥当。独立会社と同じ条件で利益責任を負いうる。
    2. 原価基準:正当な市価が得られない場合に採用。標準全部原価プラス利益基準が最も市価に近い。
    3. 協定価格基準:客観的な社内振替基準が得られない場合に採用。
  • 資金の調達を外部金融と内部金融に区分するならば、増資や借入金は外部金融、利益留保と減価償却費は内部金融である。減価償却費は現金を伴わない費用である。減価償却が行われたからといってその分だけ資金が増加するわけではないが、固定資産に運用されていた資金が売上高の相手科目である売掛金受取手形などの流動資産に形を変えて再び使途を選びうる資金になると考えることができる。